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北新地のはなし②

友人に紹介されたお店は北新地でも割と有名な老舗のラウンジだった。ランチ以外の時間に一人で来るのは初めての北新地。古い雑居ビルの2階、重い扉を開けたときの景色を、匂いを、いまもはっきり覚えている。

美熟女マネージャーに案内され店内の席に座り暫く待っているとお店のママが現れた。『こんなに色っぽい年配女性が世の中にいるのか…』と感嘆した。ママの美しさは北新地でもかなり有名で、聞けば昔は新地の三大ママとして名を馳せたらしい。ママからの淡々とした質問に淡々と答える紫。手ごたえは正直わからなかった。すごく綺麗な笑顔だけどママの顔色が全く読めない…

いつの間にかお店は開店していて、馴染みのお客様数名と着物姿の女性がガラス張りの小部屋に入っていくのが見えた。着物姿の女性が紫の視線に気づいて軽く会釈をしてくれた。


この世のものとは思えない微笑み


女性の微笑みであんなにドキッとしたのは生まれて初めてだった。未だに脳裏に焼きついて離れない。美しかった。鏡の前で何度も練習したけど未だ会得できない…正に熟練技。いったい何人の男性があの笑顔に殺されてきたんだろう?いやはや天晴れ。

笑顔美女過ぎネキの正体はこの店のチーママで面倒見のいい優しいお姉さんだった。後々お店のルールやマナーなどを丁寧に教えてくださったり、本当にお世話になった紫の恩人だ。気づけば紫は面接をクリアして翌日からさっそく出勤する運びとなっていた。

気になるギャランティは…ホステスとしては最低時給の¥2,500スタート。最低金額に愕然とした……ことはなく、むしろ一発合格でコンプレックスだった芋顔に時給がついたことが、元拗らせ隠キャの紫には大変喜ばしかった。


『よっしゃ!顔面に時給ついたラッキー☆こっからどんどん磨きかけて絶対売れてやろー!』


まだ何も知らない紫はこれまで一度も着たことがなかった背中と胸元が大胆に開いた真っ赤なロングドレスを身に纏い、胸に希望と大量のヌーブラをぎゅうぎゅうに詰め込んで北新地ホステスとしての第一歩を踏み出したのだった。


あとちょっとだけつづきます✩.*˚

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