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コロナが突きつけたのは、「自分の頭で考えられるかどうか」


自由になってわかることがある


「本田さんは、いつも自由でいいですよね」

 そんなふうに言われたことが、これまで何度もあります。僕自身、自由であることをとても大切にしてきました。ただ、自由には一方で、責任や義務やリスクが伴う、ということも多くの人に知ってほしいと思っていました。

 コロナがやってきて、多くの人がリモートワークを経験して、その自由の難しい部分を体感することになった、という声をたくさん耳にしています。

 家で仕事をしていたら、自由なわけです。上司が日常をチェックするわけではない。同僚に見られているわけでもない。何時に起きたっていいし、仕事をしていても、していなくても、あまりわからない。

 会社に行っているときは違いました。実は、いるだけで仕事をしているような気になれたのです。会社に行くことが、すなわち仕事。そう考えればよかった。だから、会社に行けなくなって、困ってしまった人も少なくなかったようです。

 誰にも縛られない自由の中で、ちゃんと自分がやるべきこと、やりたいことを進めていくことができたかどうか。自由になったことで、それが問われたと思うのです。

 組織があり、上司がいて、「キミはこういう仕事をしてね」という状況の中で仕事ができていた人だったのか。それとも自分の頭でちゃんと考えて仕事を進めることができる人だったのか。それが、はっきりしてしまった。

 自由になったときに、伴う責任や義務やリスクがあっても、しっかり自分の力が発揮できるかどうかがわかってしまった、ということです。

収入が減っても困らないことがわかった

 実は自分自身でも、ある程度はわかっていたと思います。自分はどういう人間なのか、ということを。それが、コロナは目の前に突きつけた、ともいえます。

 その意味で、どんなに憧れていたとしても、自由には向かない人もやはりいるのだと思います。逆に、実は意外に自由に向いている、という人もいます。

 そういう人は、どんどん自由な方向に向いていったほうがいい。なぜなら、そこには大きな可能性が潜んでいるから。組織を離れても、十分にやっていける人だから。自由の中でも、きちんと泳いでいける人だからです。 

 そういう人は、自由の良さを十分に味わうことができます。

 アフターコロナが突きつけているのは、実は「選択」なのだと僕は思っています。今、KADOKAWAでアフターコロナをテーマにした本を作っていて、そこで詳しく紹介するのですが、オンラインサロン「Honda.Lab.」では、メンバー向けにたくさんアンケートを取っています。

 そこには、とても興味深いコロナのリアルが記されていました。その中にひとつに、「ようやくこの本質が日本人にも見えてきたのか」と僕がとても関心を持ったメンバーのコメントがありました。

「収入が減ったとしても、実はそれほど困らないということがわかった」

 コロナで閉じこもることになって、出かけられなかったということもあるのかもしれませんが、多くの人が生活を見直していました。結果的に、節約していたのです。そうすると、収入が減ってもそれほど困らないことに気づいてしまった、というのです。

お金やモノは少ないのに幸せな国

 お金がなくなってしまったから一生懸命に節約をして、ちょっと苦しんで生活します、というのではありません。本当に自分に必要なものはなんだろう、本当にあるべきものはなんだろうということを考えてみたら、それほどお金は必要なかったことがわかったのです。

 これは、実は「節約」ではなく「選択」です。自分の意志で、それまでの暮らしを手放せたということです。
 そして、贅沢などというものは実は大して重要ではないことにも、気づいてしまった。
 出かける場所がなければ、ブランド物のモノを見せる機会だってない。高額な化粧品もいらない。贅沢をしようにも、その意味が見つけられなくなってしまったのです。

 これからの時代は、こうした「自分の選択」が問われてくると僕は思っています。そして、これをいち早く取り入れていたのが、僕が2012年に出した書籍『LESS IS MORE』(ダイヤモンド社)で記した北欧の世界でした。


 北欧は税率が高いので、手取りはとても少ない国が多い。ところが、世界の幸福度ランキングでは、常に上位にランクされています。2020年の世界の幸福度ランキングでは、フィンランドが1位、デンマークが2位、ノルウェーが5位、スウェーデンが7位です。


 幸せなのです。それは、彼らが自分で選んで自ら望む生活をしているからです。

自らの意思で選択することができるか

 一方で日本はどうか。収入も多く、豊かな生活をしている人は多いのに、世界幸福度ランキングは、2020年はなんと62位です。2019年は58位。2018年は54位と毎年、順位を落としています。

 この背景にあるのは、自分で「選択」ができているかどうかだと、僕は思っています。収入も多く、豊かな暮らしを、本当に心の底から望み、選択しているのか。なんとなく、まわりがそうだから、そうしているだけに過ぎないのではないか。

 豊かな暮らしを得るために、たくさんものを失っているのではないか。本意でないことを強いられているのではないか。可能性があるのに、「そんなものはあるはずがない」と勝手に自分の中に納めてしまっているのではないか。

 しかし、コロナがやってきて、選択肢が見えてきました。大きな収入を得なくても、幸せになれるということ。自らの選択として、支出をコントロールする暮らしをするということ。意志を持ってそれをやれば、十分に人生は楽しめる。幸福度も下がったりしない。これが、わかってしまったのです。

 もっとシンプルな言葉でいえば、こういうことです。

 物質的には質素だけど、精神的には豊かな生き方をする。

『LESS IS MORE』で描いた北欧の世界観を、どうやって自分の中に作っていくか。その上で、自らそれを選択していくことができるか。

 それができるかどうかで、これからの人生の充実度はまったく違ったものになっていくと僕は思っています。もちろん、これまで通りの暮らしを求める人がいてもいいでしょう。ただし、それを自分で選択した、という意志が必要です。

 なんとなく、まわりもそうだから、などという消極的な理由で選択している。あるいは、選択肢も見ず、選択している意識もない。これでは、かなり危険です。自らの意思で選択していく人が増えていく、これからはなおさら、です。

自分で考える力が求められている

 アフターコロナで求められてくるのは、よりシンプルな生き方だと僕は思っています。その意味で、これから必要なのは、やらないことを明確にしていくことかもしれません。

 やりたいこと以上に、やらないことを決めていく。足し算より引き算。何を大切にするのか、をきちんと定めておく。これが、問われてくるのです。

 もっと端的にいえば、自分で考える力です。みんながそうだから、と何も考えずに鵜呑みにしてしまってはいないか。会社の上司や同僚が言っていることが、すべてだと思ったりはしていないか。自分できちんと情報に向き合い、咀嚼しようとしているか。

 コロナが起きてから、その力は如実に出たかもしれません。フェイクニュースを自分で調べもせずにシェアしてしまっていた人がいました。特定の個人の言い分を信じ込んで、人を非難している人もいました。

 日本は戦前、何も自分で考えてはいけないような社会でした。それが何をもたらしたか、歴史は教えてくれています。

 自分の頭で考えよ。自分で選択せよ。

これもまた、コロナが突きつけた、強烈なメッセージだと僕は思っています。

本田直之

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