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ファンベースカンパニー、佐藤尚之は、 なぜマス的なものの限界にいち早く気づき、 ファンの獲得をメッセージするのか?(前編)

アフターコロナ時代のあり方とは

 コロナがやってきた今、求められているのは、大きなパラダイムシフトだと思っています。ビジネスも、経営も、組織運営も、働き方も、ライフスタイルも、大きく変えなければならなくなっている。もう、かつてのやり方ではうまくいかなくなってきているのです。

 では、アフターコロナ時代のあり方とは、どのようなものなのか。それを経営者でシェアしたくて、オンラインサロン「Honda.Lab.」では、さまざまなゲストを招いてディスカッションをさせてもらっています。

 その中から、とっておきのエッセンスを記事化してnoteで紹介することを考えたのが、この企画。後にマガジン化する予定の「アフターコロナをどう生き抜くか」です。

 今回は、ファンベースカンパニーの佐藤尚之(さとなお)さん。1985年に電通に入り、コピーライター、CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターとして数々のキャンペーンを担当。一方で個人サイトをネット初期の1995年から始め、ソーシャルメディア領域でも知られていました。電通のウェブ部門の草創期に関わっていた人でもあります。2011年に電通から独立、コミュニケーション・ディレクターとしてコミュニケーション・デザインを扱う事業をスタートします。

 これ以外にも、サロン運営など、いろんな顔を持っていますが、僕が知っていたのは、食の達人だったこと。「食べログ」がない時代から、レストランガイドやおいしい店リストを世に送り出していて、お会いしたことはなかったのですが、お世話になっていました。

 これからはファンの時代だ、とメッセージした2018年に刊行された著書『ファンベース』が大きな話題になっていて、いつか読まねばと思っていたのですが、コロナがやってきて、ようやく手にすることができたのでした。そして、これはお会いせねば、と思ったのです。

コロナでわかった飲食店の明暗は、一般企業も同じ

 コロナはこれまで見えなかったことを、たくさん明らかにすることになりました。そのひとつに、本当に支持されていたお店とは、どういうお店だったのか、がありました。

 もともと飲食店は、立地が重要だと言われていました。人通りが多いところに店を出せば、繁盛店になる。ところがコロナがやってきて、真っ先に直撃を受けたのが、人通りの多い立地のいい店だったのです。

 逆に立地のよくない店、住宅地の真ん中にあったような店はあまり影響を受けなかった。なぜなら、積極的に選択されていた店だったからです。みんながその店の常連で、わざわざ行っていた。むしろコロナがやってきて、お店を応援しようと駆けつけた。

 結局、立地のいい店というのは、消極的に選択されていた店だったのです。駅に近いから、とか、会社に近いから、とか。その店に行きたくて行っていたのではなくて、たまたま行っていた。その「たまたま」がなくなれば、行く理由がなくなります。コロナが、それをあぶり出してしまったのです。

 飲食店についてそんなことを思っていて、コロナの最中に読み始めた佐藤さんの『ファンベース』でしたが、なるほど飲食店に限らず、一般企業もそうなんだな、ということを教わりました。実際、カゴメやマツダの例が出ていて、すでに「積極的に選ばれる」活動をしていた企業は、すでにひと味違う取り組みをしていたのです。

 今、間違いなく言えることは完全にコロナ前に戻ることはないということです。欧米では第三波が取りざたされているし、第2コロナが出ない保証もない。すべての企業が発想を切り替えないと、ロイヤリティがない中で人通りが減った飲食店になりかねない。これをもう2年も前に、佐藤さんは著書で語っていたのです。

「時代的なことが大きかったんですね。広告で伝える仕事を30年やってきたわけですが、今はとにかく情報が過剰に多いんです。無限なほど多い。動画の時代と言われますが、YouTubeだけで1分間に500時間の動画がアップされていて、1日分見るのに82年かかります。他にテレビがあって、Netflixがあって、Huluがあって。そんな時代に、興味関心ない企業やお店の情報を見る理由も何もない。広告は、興味関心ない人に見てもらって、認知を取って、あわよくば買ってもらおうとしていたわけですが、今はもう通用しない。それでは相手に伝わらない時代なんです」

 ただ、発信された情報を見る人もいる、と佐藤さんは言います。それは誰かというと、ファンの人たちです。興味関心のない人は見ないけれど、ファンの人は見るのです。

20%の上位顧客で、80%の売り上げを占める

 いわゆるマスメディア、マス広告、マス的なものの「伝わらなくなっている」状態は、ますます拡大していると僕も感じています。例えば、「食べログ」にしても、サイトが肥大化し、情報が多くなり、すでにマス化してしまっています。そうなると、全体意見のようなものが出始めて、いったい誰のための情報なのかが、見えなくなっていく。自分には役に立たなくなるのです。

 実際のところは、マスの感覚では人は動きません。むしろ、みんなが求めているのは、細分化された、自分にマッチした情報です。だから6席しかない鮨店が成立するわけです。むしろ、そのほうが流行ったりする。マスを対象にしないほうが、うまくいっていたりするわけです。佐藤さんはこう言います。

「昔から、20%の上位顧客で、80%の売り上げを占めるというパレートの法則と呼ばれているものがあります。これはメーカーでも、流通でも、小売店でもそうなんです。スポーツチームもグッズなども含めると、20%のお客さんで80%の売り上げを上げています。雑誌でも、21%で71%。雑誌が売れていないという人がいますが、雑誌が大好きな人が約20%いるんです。この方々で70%ぐらいを占めている。実は、まずやるべきは雑誌を大好きな人たちがより多く買うように、雑誌ファンがもっと熱狂する取り組みをすることなんです」

 6席しかない鮨店が成立するのは、上位顧客だけをお客さんにしているからです。もっといえば、それ以外はお客さんにしていない。この発想の転換こそが、かつてはありえなかった6席だけの鮨店を可能にしたのだと僕は思っています。佐藤さんは続けます。

「つまり、ファンが支えているわけですよね。一方で、新規のお客さんに情報を伝えて獲得するのは、大変になっている。しかも、人口が減ってマーケットが縮小する時代に、本当に新規のお客さんを取り合っていていいのか、ということです。それよりも、今ファンでいて、売り上げを支えてくれている人たちをまず固めるべきだと思うんです

日本人が最も信頼するのは、家族や友人の情報

 そして、そうしたファンを大事にしなければいけない理由がもうひとつある、と佐藤さんは言います。

「世界で一番大きなPR会社、エデルマンが日本で調査した結果があるんですが、日本人が最も信頼できる情報源として置いているのは、家族や友人なんです。学者が言うよりも、有名人やインフルエンサーが言うよりも、家族や友人が信頼できる。それが、日本人なんです。情報が多過ぎて、何を信用していいかわからないから、家族や友人、さらには価値観が近い人の言葉を信用するようになってきている。つまり、ファンが自分の友人だったりすると、これこそが強い影響を相手に与えるということです。価値観が近い友人や家族が愛用しているものや好きなことは、本人も好きになる可能性が高いんです

 コロナがやってきて、インスタグラムのフォロワーも、飲食店と同じようなものだったことが明らかになっていきました。とんでもない数のフォロワーがいるからといって、実は影響力は大きいわけではなかった。

 そうではなくて、人数はそれほど多くなくても、濃い繋がりのフォロワーには強い影響力があった。フォロワーの数だけ増やそう、というのは、マスの発想そのものだったということです。佐藤さんは言います。

「情報がとんでもなく増えたのは、2005年あたりからでした。ちょうど15年前です。その頃に僕は『明日の広告』という本を出しました」


「もっと露出を多くするとか、強いメディアを使うとか、そういう話ではなくて、生活者本位で考えると、もう情報は受け取れなくなっているんです。受け取ったとしても、新しい情報が次々に来るのですぐに忘れてしまう。誰かが亡くなった、なんてニュースも、ちょっと前なのに、すぐに忘れる。途中に情報があり過ぎるからです」

 特に興味関心のない情報となれば、すぐに忘れるに決まっています。

「ソーシャルメディアで、いいね!数を取ろうとか、リツイートを多く取ろうというのは、露出の発想ですよね。駅前にお店を出せば、通行人がたくさん通るから、新規のお客さんが引っかかるんじゃないか、という発想です。それとまったく同じ発想を今でも、多くの人がしているんです」

 やらないといけないのは、本当に支持してくれる人とのつながり。濃い繋がりの人たちなのです。

その会社が好きだから買う、まで持っていけるか

 では、ファンをつくるために、企業は何をすればいいのか。佐藤さんが強調するのは、超成熟社会には何が起きるのか、です。

「これまでは、企業は商品特徴で売ってきたんです。ところが今、超成熟市場になって何が起きたかというと、この商品特徴が優れていればいるほど、すぐに他社が追いついてくるんです。30 分で届くピザは、大発明でした。宅配ステーションを作り、バイクを買い、人を雇い、オペレーションを整えて、30分のお届けが実現した。完璧なアイデアであり、突き抜けた機能価値でしたが、あっという間に競合に追いつかれました。すぐに後発に追いつかれるのが、超成熟市場なんです」

 なるほど日本企業には、この視点が抜け落ちている会社が多いかもしれない、と僕も思いました。

「30分でピザが届くという機能価値では、もう戦えない。そうすると、30分で届くからそのピザ店から買うのではなく、そのピザ店が好きだから買うのだ、としないといけないわけです。機能価値ではなく、情緒価値を作っていかないといけないんです」

 話を聞いていて、GoProのアクションカメラを思い浮かべました。自分がサーフィンをしているところや、マウンテンバイクに乗っているところから映像が撮れたらすごいよね、見たことがない映像になるよね、というワクワク感がまずあった。

 その意味では、画像がもう一つだったり、バッテリーがイマイチだったり、製品としてはダメだと思ったけど、それでも買おうと思ったわけです。こんなカメラを作ってしまおうという企業が現れたこと自体が、価値だった。

 日本のメーカーも、開発は進めていたのだそうです。ところが、完璧なものを作ろうとして、なかなか世に出せなかった。その間に市場を席巻されてしまった。革新的な商品だと一度、作られたブランドイメージは、そうそう変わらないのです。

「情緒価値というのは、感情ですよね。感情を企業や商品につけていかないといけない。僕はそれを共感や愛着、信頼といった言葉に置き換えていますが、愛着を持ったり、信頼を持ったりすると、機能価値が同じでも、他の会社には行かなくなるんです。これをもっとアップグレードすると、唯一無二の存在になる」

 その延長線上に、応援するために買う、がありました。まさにこれが、コロナの中で起こったわけです。災害不況やコロナ不況になっても、ファンがいれば強いのです。

 では、どうやってこうした感情をブランドや企業、お店につけていくのか、次回に続きます。

(後編に続く)

(text by 上阪徹)

佐藤尚之(さとうなおゆき)
コミュニケーション・ディレクター。
(株)ファンベースカンパニー ファウンダー&会長
(株)ツナグ代表。(株)4th代表。復興庁復興推進参与。一般社団法人助けあいジャパン代表理事。大阪芸術大学客員教授。さとなおオープンラボ主宰。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。
2015年にはコミュニティ運営の会社(株)4thも立ち上げる。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)。「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。
“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足!」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などがある。

1995年より個人サイト「www.さとなお.com」を主宰。1996年よりレストランガイド「ジバラン」主宰(2006年閉鎖)。
元内閣官房政策参与。元国際交流基金理事。元朝日広告賞審査員。元YOSAKOIソーラン祭り審査員。
花火師免許所持。

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本田直之
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