Behind the Scenes of Honda F1 2021 -ピット裏から見る景色- Vol.10
皆さん、こんにちは。Honda F1のエンジニア、クリス・ライトです。今回が私の最終回。モータースポーツでのキャリアパスについて、興味を持ってもらえていたらうれしいですね。
―Honda F1の5連勝、33年前のセナプロ時代以来!
今年最初の3連戦がようやく終わりました。何度経験しても3週連続のレースは本当にタフですが、それでもHondaとしてそれらのレースをすべて勝利し、シーズン通しても9戦のうち6戦で表彰台の真ん中に立てているのは、すごいことですね。11連勝を果たした1988年の黄金時代以来の5連勝ということで、自分たちもいよいよここまで来たのかと感じています。今回はマックスが圧巻と言っていいパフォーマンスを見せてくれましたし、この先私たちHonda F1がどこまで行けるのか、本当に楽しみです。
ただ、ここまでの私のエピソードを読んでもらっていたら分かるかもしれませんが、私にとっては一番大切なのはScuderia AlphaTauri Hondaであり、自分の担当ドライバーであるガスリー選手のパフォーマンスです。この間のレースではガスリー選手が9位入賞を果たして、現在、チームはランキング5位。とはいえ、ライバルとはかなりの接戦なので、コンスタントに前進を続けていかないと、このポジションをキープするのは難しいと思っています。いつも予選ではいいパフォーマンスを見せられているので、これをレース結果に繋げることが、今後のチーム全体としての課題でしょうか。特に、この次のシルバーストーンはこれまで経験したことのないスプリントレースのポジションでグリッドを決定するという特殊なフォーマットなので、どういった展開になるか楽しみにしています。
―Honda流のオペレーションは分担を徹底
さて、メルセデスからHondaに移ってもう5年が経とうとしています。働く中で、他のメーカーと異なるHonda独自の流儀というものがあるんですが、なかでも、オペレーションは独特で、最終結果に至るプロセスも全く違います。
例えば、私がコスワースにいたときには、F1担当のエンジニアは、関連するすべての事柄を把握することができました。どの部署にも行けて、そこに首を突っ込んで彼らが何をしているのかを知ることができました。エンジンがハイブリッドではなく、いまほど構造が複雑ではなかったことも理由の一つだと思います。
一方で、今のHondaやかつて所属していたメルセデスは、業務や役割が細分化されていて、オペレーション側にいると、なかなかPUの機構・構造などの全体像を把握することが難しいです。開発もオペレーション側も同様ですが、2つの回生装置を持つPUの構造が非常に複雑で、システム全体が非常に難解ということが一因だと思いますが、それ以外にも人材が頻繁にチーム間を行き来するF1という世界の中で、機密漏洩を気にする観点もあるのかもしれません。
これまでも開発に携わるメンバーにたくさんの質問をして、いろいろ答えてもらいました。私がそういう興味を持つことにみんな驚いた様子でしたね。Hondaで長く働いていますが、実際にどのように機能しているのかや、さまざまなコンポーネントにどんな素材が使われているのかなど、まだ知りたいことはたくさんあります。
―見事な躍進!2チームとの関係の賜物です
今季のパワーユニットの進化は素晴らしいですね。パッケージは小型で軽量になり、パワーも向上と、まさにパーフェクトです!
AlphaTauriやRed Bullとの関係も、Hondaにとっては得るものが非常に多いですし、同じ目標に向かって一緒の方向を目指していると感じています。両チームとも、何が問題なのかをはっきりと伝えてくれます。今は、この関係性の成果を目の当たりにできています。
我々は非常に競争力のある状態ですが、これは決して運がよかったからではありません。ここまで積み上げてきたものが花開いているからです。現在、Red Bullがチャンピオンシップをリードしているのは本当にうれしいですし、Hondaのみんなも誇らしく思っているはずです。
そんな状況だからこそ、HondaがF1から撤退してしまうのは、本当に残念です。「Hondaのエンジニア」という仕事を心から楽しんでいます。日本人のエンジニアは、日本へ戻って別の部署で働くことになるはずです。私もHondaに残って、MotoGPやインディカーなどのレース活動に関われたらうれしいのですが、なかなか簡単ではありません。
―中団チームでの戦いが大好きです
私にとって、F1でのキャリアのハイライトは、昨年のイタリア・モンツァでガスリー選手が優勝したときです。これまでで最高の瞬間でした。何年にもわたって耐えてきた苦労や、費やした努力が報われた結果で、とても昂りました。
全勝を目指すようなビッグチームよりも、AlphaTauriのようなチームに魅力を感じるんです。中団チームでまた勝利を得られたら、素晴らしいですね。
バクーで自分が担当しているピエールが表彰台に立ってくれたことは、素晴らしい気分でしたし、HondaのF1最終年に、また一ついい思い出ができました。この夢の時間が終わりを迎えるまで、まだまだこうした経験を重ねていきたいですね。
そして、ユウキ(角田裕毅)も今季表彰台に立てるかもしれません!私の想像ではありますが、それが鈴鹿で実現できれば!なんて考えてしまいますね。彼はとてもいい奴ですし、情熱や、熱さが好きなんです。きっと成功できると思いますし、そう願っています。