Behind the Scenes of Honda F1 2021 -ピット裏から見る景色- Vol.19(編集後記)
皆さん、こんにちは。たびたび登場させてもらっていますが、本コラムの編集長的な役割をしてきた、広報のスズキです。
先日の山本さん(マネージングディレクター)の回をもって、『Behind the Scenes of Honda F1 2021 -ピット裏から見る景色-』を終わらせていただこうと思います。ここまで3シーズンにわたって本コラムにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
―コラムを3年間続けてきて
20台のマシンがサーキットを駆け抜けるF1ですが、ドライバー以外にもF1チームやHondaのようなパワーユニットサプライヤーなど、多くの人たちの献身と努力があってスポーツが成立しています。
このコラムを通して、Hondaのメンバーが、日々どんな想いを持ってそれぞれの仕事に取り組んでいるのかを伝えることで、F1の面白さをもう少し奥深いところまで分かってもらえたらうれしいなと思い、様々な仕事をする仲間たちを取り上げてきました。また、ときには山本さんや田辺さん(テクニカルディレクター)がきちんとそれぞれの想いを伝える場としても活用してきました。
僕の力不足により、時折休みがちになったり途切れてしまったりということもあったので、その部分は大変申し訳なく感じていますが、それでも少しでも多くの皆さんが、TVで見る以上のF1の魅力、面白さみたいなところを感じてもらえたのであれば、ここまで続けてきた甲斐があったなと感じています。
―憧れの世界に挑戦できた5年間
僕自身は、10代の頃から憧れていたHondaのF1に、広報という立場で5年間にわたって帯同させてもらいました。
大好きだったHondaがどん底に落ちて苦しむところから、一歩ずつ這い上がりながら前進し、最後の舞台となった先日のアブダビGPでは、ついにHondaのロゴをつけて走るドライバーがラスト1周で世界の頂点に立つところまでを隣で見させてもらったわけですが、チャンピオンシップ獲得の瞬間は、ここまでかかわってきた仲間たちや応援してくれたみなさんへの感謝の想いと、「これですべて終わってしまうんだ」という寂しさとで、胸がいっぱいになりました。
あと1周で頂点に立てるかもしれない喜びと、あと1周で僕たちの冒険の全部が終わってしまう寂しさが同時に訪れるというのは、これまであまり感じたことのない感情でした。
それでも、仕事をやり切ったうえで、世界一の舞台を見せてもらえたわけで、我がことながらこんなに幸せなサラリーマンはあまりいないのではとも思っています。
―皆さんと一緒につかんだ勝利
ここまで、F1というスポーツをチームとして戦う中での悔しさや喜び、そしてなにより、諦めずにチャレンジを続けるHondaの「The Power of Dreams」を伝えたいと思いながら、様々な広報発信やコンテンツを作ってきました。
チャンピオンシップ獲得後のコンテンツには”We did it together”というコピーを使いましたが、この言葉には「マックスやチーム、Hondaのメンバーだけでなく、いつも後押ししてくれたファンの皆さんと一緒に獲得したチャンピオンシップなんだ」という想いを込めたつもりです。
Hondaのメンバー全員、いつも皆さんと一緒に戦っていると思えたからこそ、苦しいときも悔しいときも前を向き続けることができました。そんな皆さんへの、ささやかな恩返しになっていればうれしいです。
年明けにリリースしたビデオの中の「さあ、見てろよ 2021」というコピーにも思いを込めましたが、それに応える形で結果を残せたこともよかったなと思っています。
―今回の挑戦が遺したものは
多くのF1 チームはクリスマスからしばしの休暇を取り、年明けから新シーズンに向けて一気に開発の佳境に突入していきます。僕たち広報も、例年であればアブダビGPを終えると次の年の始動に向けて発信内容やコンテンツのアイデアをまとめ始めるのですが、今年はそういったこともなく、なんとなく居心地の悪さを感じて今を迎えています。
現在はメディア上では今年のチャンピオンシップについて語られていますが、あと1か月もすると海外メディアの関心は新シーズンに関するものがメインになり、2021年はF1の歴史の一つとして、過去形で語られるだけのものになります。パドックにいる仲間たちが前に進んでいく中で、僕たちHondaだけがここで止まってしまうのは本当に寂しいのですが、それが参戦を終了するということなんだよなと、日々実感を強めています。
参戦終了となることは残念ですが、山本さんをはじめ、多くの人が話しているように、僕もHondaとしてこれが最後のF1プロジェクトにはならないことを願っています。
自動車業界全体が大変革期にあり、企業として他に優先しなければいけないことがある状況なのは間違いなので、致し方ないことだと思っていますし、「モータースポーツはDNA」と言い切っている会社なりの、大きな決断だったと思っています。
ただ、F1に関わってきた当のエンジニアたちは、コンストラクターズチャンピオンシップを獲得していませんし、最後のレースでペレス選手がパワーユニットのトラブルによって完走できなかったことに対して満足できていません。まだやり残したことがあると思っているはずです。
F1だけでなく、HondaJetや過去のプロジェクトでも見られるように、強い想いを持っていれば、それを体現できるのがHondaという会社の魅力であり面白さです。ですので、山本さんが言うように、いつかまた世界一に向けてチャレンジしたいというエンジニアたちが出てくるのはないかと、そんな風にも思っています。そしてその中に、「”第四期” F1プロジェクトに憧れてHondaに入社しました」と言ってくれるメンバーがいたら、そのときには「僕たちが必死にチャレンジしてきた意味があったな」と感じられるはずです。
―夢は続いていきます。またお会いしましょう
F1は終わってしまいますが、HondaのThe Power of Dreamsはまだまだ続きます。様々な分野で面白いことにチャレンジしていきますし、そのチャレンジには今回のF1で戦ったメンバーが舞台を変えて活躍してるかもしれませんので、また別の形で応援してもらえたらと思います。
ここまで過去の担当分も含めて、イチ広報担当風情が喋りすぎだよなという申し訳なさとともに書いてきましたが、それでも最後までお付き合いいただいたこと、感謝申し上げます。
そして皆さんと一緒にここまで夢を追い続け、最後に実現できたことが本当にうれしかったです。とてつもない冒険をしてきた気分ですが、情熱と誇りを持って挑戦を続けることって、泥臭いけど、いいことだなと、少しでも共感してもらえたのであればなによりです。
またいつか、Honda F1が皆さまと再会できる日を願いつつ、本コラムの結びとさせていただきます。
今まで本当に、ありがとうございました。また逢う日まで。
―― Honda F1広報担当 スズキ