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カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記しますパート➁

カドブンででおすすめさせていただいた三作のうちの一作。今回は「酔歩する男」について追記します。

著者は小林泰三氏。2020年にご逝去されました。
『玩具修理者』という日本ホラー大賞受賞作品に付属している中編で、SF色を多分に含んでいるホラー小説です。というか、がっつりSF小説です。
以下で軽めに序文の紹介をします。


 仲間内で酒を飲んだある夜。外はいつの間にか雨が降っている。仲間たちが帰宅した後、主人公は店内でタクシーの到着を待っていた。
 そこに見知らぬ男が話しかけてくる。
「あのう……。つかぬことを伺いますが、もしや、わたしを覚えておいでじゃありませんか?」
 主人公は見覚えがないことを伝える。
「ああ、そうですか。知りませんか。そうですか。失礼しました。いえ、人違いではないんです。わたしはあなたをよく存じあげております。でも、あなたがわたしのことを知らないのなら、知り合いではないのでしょう。すみませんでした」
「どういうことですか? あなたはわたしをご存じなんですか?」
「はい。わたしはあなたを存じあげております。しかし、どうやら、あなたはわたしのことをご存じないようですので……」
「それはつまり、勘違いだったんですね」
「勘違いではないのです」
「もし、あなたがわたしをご存じだとしたら、わたしが忘れていることになる。そうなんですか?」
「いいえ。そうじゃないでしょう。きっと、最初から面識がなかったのでしょう。あなたは大学の同級生の顔を忘れるような人ではないはずです」


というように、わけのわからない男にからまれ、酔っぱらいのたわ言か、からかわれているのかもわからないまま、話は進んでいきます。
この導入部分の雰囲気が秀逸で、もしも自分がこんな変な男に声をかけられたら……と考えてしまうんです。
そして男は異質な過去(あるいは未来)を語り始めます。

小説を読んで感涙、あります。
小説を読んで恐怖、あります。
小説を読んで眩暈、あります……?

カドブンでも書きましたが、読書で眩暈がして足元がふらつく、という経験をしたのは後にも先にもこの作品だけです。
それは僕だけなのかと思ったら、あとがきを書いていた井上雅彦さんも同様の経験をされたようです。いやあ、想像力の力はすごいなあと思いました。

途中に前時代的なノリの部分もあるにはあるのですが、全体的には今読んでも古臭くはないかなと思います。
酔っぱらって、おかしな男に絡まれ、自分の知らない自分の話を聞かされる、ということは今も昔もよくありますから。……ないか。

この文を書くのに読み返してみましたが、やはり立ち眩みをしました。決して、今僕が風邪をひいているから、ではないと思います。


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