見出し画像

回転するふしぎなたんぱく質、F1-ATPaseが生命のエネルギーをつくる

F1-ATPase という、まわるたんぱく質がある。これに力をかけてまわすと、ATPという分子をつくる。ATPはたんぱく質にとって燃料のような分子。つまりF1-ATPaseのおかげで、僕たちは生きていけるんだ。

F1-ATPaseのかたち

F1-ATPase(エフワン エイ ティー ピー エース)は、まず6つのたんぱく質が輪っかのようにならんで筒をつくっていて、

上から見ると、こんな感じ。

その筒のなかにもう1本、たんぱく質がささっている。このまんなかのが回転軸になる。この全体が、F1-ATPase。

上から見ると、こう。

F1-ATPase のはたらき

回転軸に力をかけてまわすと、F1-ATPaseはADPとリン酸をくっつけて、ATPをつくる。

まわす力がどこからくるのかは、とても複雑なおはなしになる。短くいうと、僕たちが食べた食べ物を分解して、そこからエネルギーを取り出すしくみがあって、そのエネルギーをつかってまわしている。

ATPはたんぱく質にとっての、燃料。多くのたんぱく質が、ATPを燃料にしてはたらいている。ミオシンも、ATPを分解してエネルギーを取り出し、アクチンの上をぐいっとあるく。

そして、たんぱく質がはたらくから、細胞が生きていける。僕たちのからだの中でもF1-ATPaseがくるくるまわり、せっせとATPをつくり続けている。そのおかげで、僕たちは生きている。

バクテリアも酵母も、キノコもミノムシも、アサガオもミミズも、ヒトデもイワシも、みんなF1-ATPaseがつくるATPをエネルギー源にして、生きている。

F1-ATPaseは機械に似ている

F1-ATPaseの回転軸に力をかけてまわすと、ATPをつくる。

逆に、F1-ATPaseにATPを与えると、回転軸が力を出してまわりはじめる。

これは電気モーターと発電機の関係とおなじだ。

扇風機のスイッチを入れると、モーターの回転軸がまわってハネがまわり、風がおこる。

逆に、扇風機のハネに風をあててまわすと、回転軸がまわされてモーターから発電される。

つまり、F1-ATPaseもモーターも、力をかけてまわすと、エネルギー(ATPや電力)をつくる。逆にエネルギーを与えると、力をだしてまわりはじめる。

たんぱく質は分子機械

たんぱく質は分子だ。F1-ATPaseはものすごく大きな分子だけど、でも分子だ。分子が、電気モーターと同じようなはたらきをしている。ミオシンも、ATPを燃料にしてうごくエンジンみたいなもので、やはり機械に似ている。僕が大学生だった1990年代には、このようにたんぱく質が機械のようにはたらくことは、大学の講義で話してもよい程度には確立した話だった。でも、まだ未解明の部分も多い、最先端の領域でもあった。大学の講義で「たんぱく質は巨大な分子機械なのだ」と話す教授たちはみんな楽しそうで、輝いていた。僕が生命科学に魅了された、大きなきっかけのひとつだったと思う。


いいなと思ったら応援しよう!