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遺伝子の文法と、生命の起源

DNAは、4文字だけで20種類のアミノ酸を表す。この表し方を調べていくと、生命の起源についての重大なメッセージが浮かんでくる。

あたまの体操

DNAには、A, T, G, C の4文字しかない。

たんぱく質の材料になるアミノ酸は、メチオニン、ロイシン、グルタミン酸、アルギニン・・・、と20種類ある。

DNAはたんぱく質の設計図で、アミノ酸のならび順が書かれているはずなんだけど、4文字だけでどうやって20種類のアミノ酸を表現しているのだろう?

ここで、あたまの体操だ。

DNAの1文字が、ひとつのアミノ酸を表わすとすると・・・

4文字では、ぜんっぜん足りない。

じゃあ、DNAのとなり合う2文字をひと組みにして、この2文字でひとつのアミノ酸を表わすとすると、どうだろう?

AA, AT, AG, AC, TA, TT・・・と、ぜんぶで何とおり?

16とおりだね。

アミノ酸は、20種類だから・・・

おしい!ちょっと足りない。

じゃあ、3文字でひとつのアミノ酸を表わすと?

AAA, AAT, AAG, ・・・と、書くのがめんどくさいぐらいたくさんの組み合わせになる。

おとなは、こういう時にかけ算を使うのだ。

4×4×4 だから、ぜんぶで64とおり!

これなら20種類のアミノ酸を、よゆうで表現できるね。3文字なら、足りる。

生き物は無駄なことはしない

実際、生き物はこの計算のとおり、DNAの3文字でひとつのアミノ酸を表わしている。

2文字じゃ足りないし、4文字じゃ多すぎる。

3文字は、20種類のアミノ酸をカバーできる、一番少ない文字数だ。だから生き物は「3文字」を採用したと思われる。

生き物は無駄なことはしないのだ。

コドン!

でも、3文字だと64とおりもの組み合わせになって、20種類のアミノ酸をすべて表わしても、まだ44組もあまる。残りの44組は使われないのだろうか?

実は使われている。しかも64組すべて、残らず使われている。

この3文字ひと組みを「コドン」っていう。どのコドンがどのアミノ酸を表わすかは、下の表のようにすべて分かっている。

これがコドン表。美しい。

数学的なまでに美しく、完璧だ。

コドン表を見ていくと、ひとつのアミノ酸をいくつかのコドンが担当しているケースが多いので、64組すべて使われてるんだと分かる。

ただ、TAA, TAG, TGA の3つだけは、なんのアミノ酸も担当していない。からっぽのコドンだ。この3つは「終止コドン」といって、DNA上にこれが出てきたら「たんぱく質はここまで!」っていう、設計図の終わりを意味する記号だ。

あと、メチオニンをあらわす ATG は「開始コドン」でもある。DNA上に ATG が出てきたら、「たんぱく質はここから!」っていう、設計図の始まりを意味している。

遺伝子の文法

これで僕たちは遺伝子の文法を手に入れた。

たとえば、

ATGGCTAAAGACAGC

という遺伝子配列を見ても、もう怖れることはない。

ATG GCT AAA GAC AGC

と、まず3文字ずつ区切る。

それからコドン表と見比べて、

ATG はメチオニン

GCT は アラニン

と、当てはめていく。

すると、この遺伝子配列は、

メチオニン - アラニン - リジン - アスパラギン酸 - セリン

というアミノ酸の配列を書き表していると分かる。

文法が分かれば、遺伝子を読み解けるようになるんだ。

コドン表と生命の起源

地球上のほぼすべての生物が、このコドン表を使っている。まったく同じ文法で、DNAの上にたんぱく質の設計図を書いているんだ。例外もわずかにあるけど、その例外的な生物のコドン表も、上で紹介したコドン表とほんの数か所ちがうだけだ。

つまり大まかには、

「地球上のすべての生物が、おなじコドン表を使っている!」

といっていい。

この「すべての生物」っていうのは、動物や植物はもちろん、キノコなどの菌類や、ゾウリムシなどの原生生物、大腸菌などのバクテリアから、ウイルスまで、本当ににすべてだ。動物っていうのも、ヒトやカブトムシ、ナメクジやミジンコ、ヒトデからイソギンチャクまで、あらゆる動物のことだ。

これがみんな、(基本的には)ひとつのコドン表を使っている。

みんなが、おなじ文法で、遺伝子を書いているんだ。

この強烈な事実は、僕たちにこうささやきかける。

「地球上のすべての生物は、太古に生まれた、たったひとつの細胞の子孫なのだ」と。

想像するだけで、ゾクゾクする。





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