「シスコ・パラダイス」
2/5より、塔本シスコさんの作品展覧会「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」が熊本市現代美術館で開催中です!
僕は美術に詳しいわけではなく、塔本シスコさんも今回初めて知りました。
CMで映し出された極彩色の作品群に目を奪われ、気になったらとりあえず行く精神の僕は、開幕して次の日、すなわち本日拝見するに至ったのです。
シスコさんについて
塔本シスコさんは、熊本県八代市出身の画家です。
シスコとは芸名でもP.Nでもなく本名です。
珍しい名だと思っていたら、彼女の父が、サンフランシスコに行きたいという夢を名前に込めたためだとか。想像の斜め上をいく理由でしたが、おかげで一度聞くと忘れられない個性的な名です。名前を覚えてもらうことが重要な芸術家にとっては思わぬ僥倖でしょう。
シスコさんが画家としての人生を歩み始めたのは、なんと53歳。きっかけは、46歳の若さで急逝された夫の死でした。
息子の賢一さんは画家として活動されていましたが、突然絵を描き出した母に驚きます。そして、その才覚にも。
それからというもの、賢一さんの協力もあり、シスコさんはこの世に多数の作品を産み落とすことになるのでした。
シスコさんの絵の特徴
色彩
とにもかくにも、色彩が豊かなのです。まるでパレットの上をそのまま移したように、キャンバスの上でそれぞれの色が生き生きと踊っていました。中でも青、緑色の使い方が個人的には好きでした。
例えば、こちらの絵。
緑の草の明瞭さはさることながら、さらにその中に青色で描いています。
すすきの茎のようです。青なんて想像したことなかった。
「草の青」をダイレクトに伝えてくる、生き生きとしている。
もしかすると、月明かりで若干青いのかもしれない。
白く、長い虫の触覚もいい。細いのに、何故か視認できる虫の触覚の雰囲気が伝わります。
叙述的でありながら、想像力を刺激される楽しい作品でした。
生命力
「額縁の中で小さな命が凝縮されている」
素敵な言葉だと思いました。絵の解説を行っていた、シスコさんの孫である福迫さんがおっしゃっているのを耳にしたのです。
シスコさんの絵の特徴は、一つの絵の中に様々な生き物や人間が凝縮されている点にあります。
例えばこちらの絵。
登場しているのは、女の子と、ウサギと鳥です。
女の子たちは、きっと七五三の日を祝い合っているのでしょう。
ウサギたちは、特にこの白いウサギたちは、子ウサギでしょうか。となると、この色が濃いのは親ウサギで、ウサギにはウサギなりの七五三があるのかもしれません。
鳥の種類も良く見たら多様です。白い鳥から、キジバトのような野性的な鳥もいます。黄色い鳥も。
当然ながら、命は動物だけの話ではありません。ピンクの可愛らしい花の群れ。七五三の皆が幸せな気持ちになる雰囲気に、文字通り花を添えています。
一枚の絵の中に、所狭しと命が輝く。この溢れんばかりの生命力は、シスコさんの子どもや、生き物を愛する気持ちの表れなのでしょうか。
シスコさんの絵にはもはや「妥協」がありません。書く時に、全てを書く。そんな気概が伝わってくるほど、一つのキャンバスにこれでもかというほど、画材を塗る。さらに重ねて塗る。
こちらの絵は鹿児島の桜島を描いた絵で、数多くある絵の中から特に気に入った絵の一つです。
この記事のヘッダーにも使用させていただきました。
どのくらい気に入ったかというと、この絵のポストカードを購入するほど好き。
この絵の完成には何と10年以上かけているようです。何度も何度も、納得がいく地点まで絵具を重ねられたこの絵からは、こだわりの深さが見て取れます。
桜島ってこんなふさふさしてたっけ? と一見思いましたが、シスコさんの眼を通すと、これだけ生命力に溢れるものに見えていたということでしょうし、そもそも写生ではありません。僕はこの桜島が好きです。
さらに火山灰の書き方が素敵だと思いました。
まさかと思う方もいるかもしれませんが、そのまさか。桜島から飛び出しているこのまん丸な玉こそ、鹿児島県民の車や洗濯物の大敵である火山灰なのです。
ピンク、黄色、赤という、「灰」とは真逆の色相環に位置していそうな配色で、夢がありますね。
こんな火山灰なら頭から被ってみてもいい。いや、嘘です。
自由さ
例えばこちらの絵。
こちらの絵を見ると、数人の少女が花園五色山にある色彩の中を渡り歩いているように見えます。(シスコさんの想い出の風景であり、この三色が何なのかは不明です)
なんと、この歩き回っている少女、全員シスコさん本人なのです。さらに言えば、絵の中に文字が入っています。
シスコさんの自由奔放さが、絵に一味を加えて「面白さ」を生み出していると思いました。
シスコさんの絵には、文章や、当時の年齢が入っている作品が多数あります。その時、どんな感情だったのか、何歳だったのか、一目で分かるのです。
作品チラ見せ
それでは、シスコさんの作品をちょっこっとだけ紹介しましょう。
個人的に特に心に残ったものをお見せしたいと思います。
ちなみにこの絵でもシスコさん、分身しています。
きっと動き回る取材だったのでしょう。見てみたかったなあ。
シスコさんの人生
今回の展示会では、当時の絵と共にシスコさんの人生を振り返る構成になっていました。
大正から平成にかけて行きぬいたシスコさんの絵には、「大阪万博」、「長野オリンピック」といった日本の一大イベントはもちろんのこと、「戦時中」が背景にある作品もあります。
歴史を振り返ることができる点においても、貴重な展示会だと言えるでしょう。
シスコさんの当初の絵は、叙述的な落ち着きのある絵でした。
しかし、画家人生が進むにつれて、絵はシスコさんの生き様そのものを映し出すように、「生き生き」と「賑やかさ」と「命」溢れる画風になっていったようです。
キャンバスの向きを変えながら描くことで、どこから見ても大丈夫という遊び心を取り入れたり。
そして家族。
シスコさんは、家族の絵を、家族と共に過ごす日々を、よく描いたようです。
事故により夫を早くして亡くし、人生の大半を息子であり同じ画家である賢一さんと絵の道を進みだしたシスコさんにとって、家族の存在は大きな心の拠り所だったに違いありません。
館内を進んでいくと、時代は晩年のブースに。
シスコさんは病床に伏しながらも、それでも絵筆を手に取ります。
それまで、抱えられないほど大きなキャンバスに広々と描いていた画風から、ベッドの上でも書けるように、小さめのキャンバスに変わっていきました。
アロエの花を描いた作品は他にもありました。きっと好きな花だったのでしょう。この時、91歳です。
晩年の大作です。大きな月と、笑顔で綱引きをする人々の活気が伝わります。この絵は、シスコさんが自身の記憶を頼りに描いたものだとか。
そして、最後に描かれたのは、「月」の絵でした。
40年近くの画家人生の間に、何度も何度も描いた美しい「月」の絵でした。
塔本シスコさんは91歳で、その生涯に幕を閉じます。
最後に
50代から始まった塔本シスコさんの画家人生。それは、この世にたくさんの「好き」という感情を産み落とし続けた、強く、楽しい、「生きる」エネルギーに満ち溢れたものだと思いました。
「かかずにはいられない!人生絵日記」とは、この展覧会のサブタイトルですが、まさしくこの方のためにあるようなタイトルです。「生きることの楽しさ」を描き続けた、シスコさんにぴったりの。
すっかりシスコ・ワールドの虜になってしまったことは言うまでもありません。
「好きなことをめいいっぱいやる」ことの尊さ、素晴らしさ。その結果生まれる、魅力的な作品たち。
出逢えて幸せだなあと、心から思った日曜日でした。
そんな、「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」は2022年4月10日(日)まで、熊本市現代美術館にて開催中です。
熊本県民の方も、そうでない方も是非お立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
それでは、今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。