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<連載>大型本出版プロジェクト③「世界一美しい本をつくろう!」

大型本にかける!社長の熱き想い

2020年3月某日
さて、時間はまた少し巻き戻って、この企画がスタートした頃のことです。
大型本を指さして「これオモロイだろう!」と叫んだ社長ですが、
そこには思い付きだけではなく、本作りへの熱い想いも込められていたのです。
ここ数年、紙媒体、特に出版・商業印刷は少しずつ縮小しており、
世の中のデジタル化は加速する一方で、印刷物の減少傾向はこの先も続くと見られています。

日本印刷技術協会のサイトによると、

「印刷統計」の2004年調査開始以来の製品別シェアを見ると、この17年間で大きく減少したのは出版印刷(30.0%→15.6%)

とのことで、出版業界を取り巻く環境は厳しい状況が続きそうですが、
紙の書籍の需要は常に存在することも事実です。

『印刷会社として、紙の文化、本の文化を後世に遺したい。ただ、普通の本を作っても日々大量生産される書籍の山に埋もれるだけだ。何か世の中に強烈なインパクトを与えられるような、面白い本が作れないか』

この企画には、社長のそんな熱い想いが込められていました。

大型本は確かに魅力的です。ただ、大型本にふさわしいテーマとは一体何なのか。

このプロジェクトを進めるにあたり、TASCHENの他にもう1社参考にした会社があります。同じくドイツの出版社、STEIDL(シュタイデル)です。
このSTEIDLについての詳しい説明は置いておくとして、今回は1冊の本をご紹介します。

『世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅』(新潮社)

STEIDLの本作りを追ったドキュメンタリー映画のDVDブックですが、
この本の中で、STEIDLの創始者であるゲルハルト・シュタイデル氏はこのように述べています。

「印刷は死んでいない。本は死んでいません。だからこそ、出版社は、本をより美しく仕上げるようにしなくてはならないんです。」

社長の熱い想いと、シュタイデル氏のことばが、私の中で重なりました。

豊島区の片隅にひっそりと息づく印刷会社ですが、本づくり文化の一翼を担いたい、そして、大きいだけでなく世界一美しい本を作ってみよう、そう強く決心したのでした。

そしてゴミ置き場は会議室になった

2020年7月某日
さて、2020年7月からチームが編成され、本格的に動き始めました。
メンバーは私と、30代半ばのO氏、20代半ばのTaroの3名です。
全員男というのがやや不満でしたが、とにかくやるしかありません。

毎日夕方、時間を決めて3人で集まり、アイデアを出し合うことになりました。
当時のわが社には物置と化した小さな打ち合わせスペースが存在しており、
そのゴミ置き場のような場所を「会議室」と名付け、毎日3人で集まっていました。
たまに探し物にやってくる社員から不審そうに見られながらも、
心を強く持って、とにかくひたすら会議です。

ある日、アニメ好きの女性社員から「声優」というアイデアが出てくると、
アニメに一家言あるO氏は「声優は根強いファンが多いですからね。いけるかもしれません」とやや前のめりに。なるほど、声優の大型写真集か、まったく知らない世界だが面白いかも、と思い、ある人気声優さんの事務所にこの企画を持ちかけました。スタッフの方から、スケジュールが詰まっているので、とご丁寧な辞退の連絡が入ってあっけなく撃沈したのですが、そもそも、ワケの分からない印刷会社から何も決まっていない状態の企画を持ち掛けられて、GOサインが出るわけもありません。まあ、最初だから、こんなもんでしょ、と気を取り直して、さらにアイデアを出し合うことにしました。

ボツ案製造会議

ゴミ置き場の会議室では、とにかくボツ案をたくさん出そう、
ということでひたすら案を出し合い続けました。

・ドイツのSUMO BOOKに対抗して、ホンモノの力士の大型写真集
・階段マニアに向けた全国の階段大型写真集
・夜空に輝く花火の大型写真集
・夜空に輝く星座の大型写真集
・大きいといえば重機、ということで重機の大型写真集
・昆虫の足の付け根まで楽しめる昆虫大型写真集
・手塚治虫の漫画って、大きくすると面白いかも?

などなど、
たくさんの案が出ては消え、試行錯誤が続きましたが、
最終的に、やはりアートがいいのでは、という結論に。

ふと頭に浮かんだのは、昔見た現代美術家・大竹伸朗さんの個展です。
『大竹伸朗 全景 1955-2006』と題された大回顧展だったのですが、
東京都現代美術館の空間を大胆に利用して迫力のあるアート作品が並んでいるのは壮観でした。
大判で分厚い図録もとても魅力的で、大竹伸朗さんの作品のエネルギーを表現するのにふさわしい書籍になっていると感じました。この図録のことを思い出し、やはり大きな本にはアートがぴったりなのでは、と改めて思ったのです。

『大竹伸朗 全景 1955-2006』図録

また、スマホで見ることが多くなった写真も、大判で見るときっと楽しいはず。
特に自然写真は迫力があるのでは、と考えました。

雄大な自然や動物の姿を大型の写真集で楽しみたい、
絵画の筆の動きまでが見える作品集が出来たら面白いのでは、などなど。

写真家や画家が魂を込めた作品こそ、大型本で表現するのにふさわしいと確信するようになりました。

とはいえ、何のコネクションもない印刷会社に何ができるのか、わかりません。

アートというテーマが決まったその日から、必然的に印刷・製本は最高レベルの技術がふさわしいと考え、同時に作家探しの旅も始まったのです。

次回、そもそもどんなブランドにするのか?をお届けします!