慈童の能面

妖しく映える
慈童の能面に
吸い寄せられ
その茜色の唇に
接吻しかかった

面を少し上向ければ
明るい表情となり
下に俯かせれば
暗く憂いた面影となる
能面の不思議さ

なまめかしい少年を
愛する天の邪恋、
人の道に外れた恋
年老いた男が抱いた
能面に抱いた邪恋
体の震えが止まらない


*川端康成『山の音』から