「恋するチャック」
新宿のバー「下宿屋」に入って
すぐにムーちゃんが呟いた。
「オレ、この歌好きなんっすよ」
するとすぐにコータキが言う。
「ボクも好きな曲だよ」
二人は顔を見合わせ嬉しそうだ。
リッキー・リー・ジョーンズの
「恋するチャック」だった。
彼女がハリウッドで歌っていたとき、
そのひとつ「トルバドール」で
皿洗いをしていたのがチャックだった。
ある日、チャックは突然消えた。
リッキーの恋人はトム・ウェイツ。
チャックはウェイツに電話した。
「今デンバーにいて従妹に恋してる」
ウェイツがこの話をリッキーにして、
この歌「恋するチャック」ができた。
二人が言う通り、いい曲だ。
♬ 彼、何でこないの?
一緒にパーキングにもたれかかって
いろんな人を眺めるのが好きだったのに。
彼、どうしちゃったんだろう?
なんで男の子がこうなっちゃうの?
それってチャックが恋してるってこと♬
トム・ウェイツという恋人がいたけれど、
リッキーはチャックが好きだったのだ。
チャックがおかしくなっちゃって、
突然目の前からいなくなって寂しかった。
きっと恋をしたからだとわかったけれど、
リッキーはそれでも信じたくなかった。
♬ そう、チャックは恋してるのね。
でも自分の目で見ないと信じないわ。
そこにいる彼女に恋してるの?
そんなことはありえないわ。
だってチャックが恋している子は
この歌を歌ってる少女なんだから♬
なんともいじらしい歌である。
ムーちゃんとコータキが好きなのもわかる。
リッキーのような女の子に恋をし、
トム・ウェイツのような心情にもなり、
チャックのような恋もしたのだ。
そう、ボクたちこそチャックだとね。