中村彝のアトリエ
人の気配がした。
長く煩った結核で
36歳で亡くなった画家、
中村彝のアトリエ。
体がすぐれないから
外出は少なかった。
伝染しないよう
訪れる人も少なかった。
孤独な生活だったと
想像できる。
住み込みの女中、
岡崎キイが世話した。
友人の鶴田吾郎が
ロシアの音楽家で
盲目のエロシェンコを
アトリエに連れて来た。
ルノワールに感激、
中村彝は明るいタッチで
〈エロシェンコの像〉を
一気に描きあげた。
中村彝が亡くなって
来年が100年になるが、
人の気配は彝だったのか。
霊魂がまだアトリエにいて、
絵を描きたいと言っているのか。