福井くんの大叔父さん

夏の甲子園は慶應を応援していた。
長髪に笑顔の慶應ボーイたちは
緊張の場面でも楽しくプレーした。
エンジョイベースボールの優勝は、
根性論の高校野球を根底から覆した。

僕が慶應を応援していたのは
そうした革新的な野球だけでなく、
ラジオ体操仲間のオジイちゃん、
福井さんのお兄さんのお孫さんが、
サードを守る福井くんだったからだ。

福井くんはよく守りよく打った。
楽しく頑張った陸の王者の優勝から
数日たった日、福井のジイちゃんが
癌とわかり仙台の病院に入院した。
放射線治療の名医がいるからだった。

入院する日の朝、彼の自宅前で会えた。
「これから新幹線で行くんだ、
数カ月はラジオ体操に出られないよ」
福井さんの寂しそうな笑顔が心に染みる。
放射線治療は繰り返し行われるのだろう。
どうぞ元気になって戻ってきてください。