知られざる死

生粋の成城ボーイが死んだ。
多大な影響をぼくに与えた
才気溢れる変わったヤツだった。
近づいては離れていく
猫のような男でもあった。

バスケの卓越したガードで
一緒にチームを組んで闘った。
酔うとベートーヴェンの第九を
ドイツ語で歌うこともあった。
クラスで一番の美人と結婚した。

彼は未婚だったが彼女は再婚。
二人の子供がいた。それでも
好きだった女と一緒になれて
とても嬉しそうだったが、
予期せぬ癌になったようだ。

誰にも病気のことを話さなかった。
死ぬ前はタップダンスを習い、
軽やかに踊っていたという。
最後は悲壮な死だったというが、
彼女は最後まで懸命に介護した。

もう何年も逢っていなかった。
人づてに彼の死を知った。
誰も彼の死を知らなかった。
まだ死ぬには若すぎる。
彼の希望で散骨したらしい。

猫のような男は飼い猫だったのか、
野性の山猫だったのか。
今となると何もわからない。
やりたいことをやれたか知らないが、
幸せな一生だったと思いたい。