四畳半のすき焼き

子供の頃に住んでいた家は
木造の小さな家だった。
玄関を入ると左手が居間で
脚のあるステレオが置いてあった。
両親がレコードをかけ、
ダンスを踊っていたこともある。

その横は畳の八畳部屋でボクは
両親と布団を敷いて寝ていた。
一番奥が四畳半の小部屋で
家族はそこで夕飯を取っていた。
思い出すのはすき焼きのこと。
両親が大好きでよくやっていた。

コンロに鉄のすき焼き鍋を置き、
牛脂を敷いて葱としらたきを炒める。
「余計な水分を飛ばすんだ」
父がそう言っていた。
牛肉が水っぽくなるのを嫌ったのだ。
焼き豆腐と椎茸と白菜も入れる。

砂糖を振ってからお酒を加えて、
それから醤油をかけていく。
「醤油を先に入れると肉が固くなる」
これも父の言葉だ。そう、
すき焼きの鍋奉行は父だった。
牛肉の焼け煮える匂いがたまらない。

母はただニコニコして、
「もう食べてもいいぞ」の
父からかかる声を待っていた。
最初に食べるのは母だった。
卵を割って器に入れて溶いた。
そこに牛肉を入れて食べるのだ。

美味しそうに食べる母の顔を見て、
僕は涎を垂らさんばかりだった。
早く食べたい、食べたいよ!
そうしてやっとようやく、
僕に取り分けてくれるのだった。
ああ、なんと上手い料理だろう!
四畳半のすき焼きには家族の幸せがあった。