母の扇子

夏休みに滋賀県彦根の
母の実家へ二人で行った。
東京駅から新幹線、
米原駅で近江鉄道に乗り換える。
駅舎で電車を待った。

暑がりの母はさっそく
扇子を出して扇ぎだした。
木製の扇子でいい匂い。
今思えば白檀扇子、
透かし彫りがしてあった。

あの扇子はどこにあるのか?
母が亡くなり、夏になると、
その白檀扇子を思い出す。
「暑い、暑い」と扇子を扇いで、
涼んでいた母の横顔。

ボクは小学生だった。
母はまだ若く美しかった。
二人だけの夏の旅、
ボクは嬉しかっただろうか?
やがて古ぼけた電車がやってきた。