たった1人のテノール2
僕らの合唱団は今、
フォーレの「レクイエム」と
ラターの「マニフィカート」を
来年のコンサートに向けて
練習している。
新型コロナが変異株となり、
大事をとって休む人も多く、
練習はなかなかはかどらない。
特に男性陣は元々数が少ないので
心許ない状況となる。
僕のパートのテノールは4人だが、
一人が札幌在住となって、
2人だけとなることも多い。
テノールパートが1と2に
別れるところは1人ずつになってしまう。
僕はテノールパートの2である。
「では次はテノールの2ですね」
合唱指導の先生から告げられ、
僕は1人で立って歌うことになる。
緊張して胸の動悸が高鳴る。
家で練習してきているが、
音が高くメロディが短調なので難しい。
ソプラノやアルトなど、
女性陣が耳を傾けている。
音が合っているのかわからない。
先生も歌って助けてくれる。
ようやく終わってほっとするが、
先生の顔色を見ても
良かったのかどうかわからない。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
楽しいはずの合唱が苦しくなる。
心境はまさに「レクイエム」。
切なく哀しく重苦しい鎮魂歌。
単調なるメロディだけれど、
暗譜するまで練習しなきゃと思う。
でもその練習も短調で面白くないのだ。
僕の苦難の日々は続く。アーメン。