パシュートの悲劇と再生
日本女子団体スピードスケート、
パシュートは世界一美しい隊列で
カナダとの決勝まで勝ち上がり、
ここでも3人が一糸乱れる滑りで、
五輪新記録樹立に向かっていた。
誰もが金メダル間違いなしと思った
ゴール前60mの最終コーナー。
最後尾の高木菜那がまさかの転倒、
信じられない悪夢が起こった。
先頭の高木美帆、2番の佐藤綾乃は
後ろを振り返り呆然としたまま滑る。
一瞬にして天国から地獄へと落ちた。
何が起きたのかまったくわからない。
あるなら滑った溝に足を取られたか。
泣きじゃくる菜那に慰める言葉など
誰が持っていようか、どこにもない。
北京の氷には悪魔が棲んでいるのか。
幸運をもたらす女神はいないのか。
2日後に妹の美帆が本人最後となる
スピード5種目目の1000mに出場した。
体は疲れ切り、肺など臓器は機能限界、
それでも温かい励ましの声に支えられ、
スタートでは気持ちを研ぎ澄ませ集中。
思い切り腕を振り究極まで脚を動かし、
加速して一気にゴールを駆け抜けた。
右手の拳を振り出しガッツポーズ。
五輪新記録で金メダルを獲得した。
さらにその2日後、菜那と綾乃が
最後となる種目、マススタートに出場。
菜那は前平昌でこの種目金メダル、
準決のラスト1周で順位を2位に上げ、
さあ金だ!という最終コーナーで転倒!
同じ場所でまたもや悪夢の悲劇が襲った。
佐藤は最高の滑りで決勝に進出したが、
最後に隣を滑る選手に脚を引っ掛けられた。
これまた悪夢、運がなくメダルを逃した。
パシュートで悲劇に見舞われた3人娘。
美帆は雪辱の金メダルを獲得したが、
菜那と綾乃はただただ運がなかっただけ、
素晴らしい復活の滑りを見せてくれた。
悲劇からの再生は3人ともしっかりできた。
己のベストを尽くしたことの価値は
申し分なく3人とも金メダルだった。
彼女たちのスケート人生はまだまだ先がある。
人生の金メダリストになる未来が待っている。