ツェムリンスキー「抒情交響曲」
アレキサンダー・ツェムリンスキーの
「クラリネットとチェロとピアノによる三重奏曲」。
カール・ライスターのクリネットトリオの演奏が
とてもファンタスティックと感銘してしまい、
気になっていた「抒情交響曲」も聴いてみた。
ドイツ語で「Lyrishe Symphonie」というこの曲、
男性のバリトンと女声のソプラノが歌い交わす。
まるでオペラのように愛を歌い上げるが、
一緒に歌うことは最後までない。なぜなら
二人の愛は成就されることはないからである。
歌が主体の交響曲とは知らずに驚いたが、
さらに僕を驚かせたのがその歌詞である。
ラビンドラナート・タゴールの詩だったからだ。
ベンガル語から英語に訳された「園丁」が
さらにドイツ語に訳されて相聞歌だけが使われた。
タゴールがプラハで朗読した自作の詩を
ツェムリンスキーが見聞きして感激、
この交響曲の着想を得たのである。
曲は二人の愛情が盛り上がっていくとともに
ドラマティックな展開を見せてくれる。
始まりの第1楽章は「我が心、穏やかならず」。
♬心のやすらぎが得られない
我は心の中の彷徨い人
朧気な時の明かりに照らされた霧の中
青い空に照らされる君の幻の何と大きいことか♬
第2、第3楽章で男と女は出会い愛を語らう。
第4楽章は「愛しいお方、私に話してください」
第5楽章は「恋人よ、お前の甘い口づけから解き放してくれ」
二人の愛は深まり、どこまでも甘美で妖艶で官能的。
ところが第6楽章で突然ソプラノが別れを告げる。
♬最後の歌が終わったら別れましょう
夜が明けたら今夜のことは忘れましょう
この腕に抱いた人は一体誰だったのかしら?
夢はつかまえられないもの
愛を求めるこの手は虚しさを抱きしめ心を痛めつける♬
そして第7楽章「安らぐがよい、我が心」で終わる。
♬我が心に平和あれ、別れが穏やかであるように
別れが死ではなく成就となるように
愛は思い出に傷ついた思いは歌に
最後の君の手の温もりは夜の花のように優しくあって欲しい
美しき愛の終わりよ、しばし留まれ、最後の言葉を沈黙のうちに語れ
私は跪き、君の歩む道を照らすために灯を掲げよう♬
ツェムリンスキーには若い女性の弟子がいた。
美しく才能溢れるアルマ・シントラー。
ところが彼女をグスタフ・マーラーが求婚し結婚してしまう。
ツェムリンスキーが崇拝していたマーラーが彼からアルマを奪ったのだ。
アルマへの愛と恋の物語をこの「抒情交響曲」に込めたのかもしれない。
♬我が心に平和あれ、別れが死ではなく成就となるように♬
なんとも泣かせるではないか。