豆はいつも60粒

コーヒー好きだった
ベートーヴェンは
毎回豆を数えていた。

豆の数は60粒だった。
豆の大きさはいつも
同じとは限らないのに。

よい濃さになるだけでなく、
きっと60という数字が
好きだったに違いない。

豆の数がテンポ数なら
アダージョである。
心臓の鼓動と同じくらい。

ゆっくり情緒豊かなテンポ、
ピアノソナタ第8番、
「悲愴」第2楽章である。

60粒の珈琲豆を挽いて、
「悲愴」を聴きながら
豊かな気持ちで味わいたい。