「ちはやぶる」と「千早振る」
近くのもみじが真っ赤に色づいた。
目を見張るようなくれないの紅。
百人一首でも有名な在原業平の歌、
それがふうっと口を突いて出た。
千早ぶる 神代もきかず 龍田川
からくれなゐに 水くくるとは
「不思議なことが起こっていた
神代の昔でさえも聞いたことがない。
龍田川の水面を真っ赤に染める
紅色を絞り染めにしているとは」
さすがに稀代のプレイボーイは
詠む歌も艶やかで素晴らしい。
でもこの歌を滑稽に変えてしまう
落語の世界もまた愉し。
落語の題は「千早振る」となる。
江戸中期は百人一首の
パロディ化が流行っていたという。
これは初代桂文治の作とのこと。
小さんが十八番にしていたのを
弟子の小三治が味わい深いものに。
わかっていないのにわかっていると
知ったかぶるのが滑稽噺になる。
「龍田川」が相撲取りとなり
「千早」が花魁の名字となり、
この歌をはちゃめちゃに解釈して
「とは」を花魁の名にして落ちとする。
よくぞまあ、ここまで
この素晴らしい歌を
こけにできたものであるが、
これこそ江戸っ子の持ち味。
久しぶりに腹を抱えて笑った。