駅弁は走ってから

コロナになる前は
関西出張がよくあった。
東京駅から朝早く、
新幹線に乗って行った。
朝食のお弁当を
ホームで買ったものだ。

僕が好きだったのは
深川飯し弁当だ。
あさりで炊いた
ご飯がとても美味しい。
はぜの甘露煮も添えてあり、
これがまた乙のだ。

空腹だし、席に着くや
すぐに食べたくなるが、
出発までじっと我慢する。
電車が走り出してから
食べるほうが
うんと旨いからだ。

止まっている時より、
走っているほうが
美味しいのは何故だろう。
電車が揺れて体が揺れ、
弁当までもが揺れる。
弁当が生き返るのかもしれない。

江戸の名物だった深川飯。
冷えたあさり飯も
電車が揺れると踊り出す。
長い歴史に眠っていた
あさり飯が今に蘇り、
気持ちが温かくなるのだ。