ああ!トノちゃん

「外崎です」と
携帯電話が言った。
女性の声だった。
「ユミちゃん?」
おそるおそる聞いた。

ユミちゃんが
外崎というからには
トノちゃんに何か
あったに違いない?
「亡くなったの?」

予感的中だった。
三月前にトノさんは
息を引き取った。
臓器がすべて
いかれていたのだ。

トノちゃんはボクの
仕事の恩人だった。
いつも笑顔でボクを
「弟みたいなもんだ」と
可愛がってくれた。

よく一緒にゴルフをした。
彼の家に迎えに行くと、
すでに外に出ていて素振り。
嬉しくって仕方がない、
子供のような人だ。

毎晩酒を呑み、それが昼、
朝まで呑むようになった。
「俺は肝臓に自信がある」、
しかしやがてアル中になり、
肝臓と腎臓に支障を来した。

奥さんや子供と別れて、
ユミちゃんと暮らし始めた。
「お酌してくれるんだ」、
若い女を見ながら笑う。
二人は仲が良かった。

いつも気になっていたが、
長い間会っていなかった。
禁酒の会に入るものの、
一向にアル中は治まらない。
暴力を振るうようになった。

「明日、散骨するの」
ユミちゃんは舟に乗り、
トノちゃんの遺骨を撒く。
入退院を繰り返したのち、
トノちゃんは旅立った。

「京太郎さんが迎えに来る。
ゴルフバッグを出してくれ」
そんなことを口走っていた。
トノちゃんの笑顔が忘れられない。
世界一だらしのない、最高の
愛すべき男が死んで海に還る。