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障害者サービスにおけるICT化と今後の課題


▷登場人物のご紹介

◎語り手
お名前と役職:
橋爪 貴裕 様(経営管理部長)
糸永 健太 様(経営管理部)

◎聞き手
名前:中浜 崇之(なかはまたかゆき)
ものさしを合わせる介護福祉士として特養やデイサービスで現場職や管理者として勤務。『自分らしく死ねる社会を創る』をコンセプトにテレビ東京『TOKYOガルリ』やTBS『好きか嫌いか言う時間』への出演や『週刊東洋経済』や『夢を育てるみんなの仕事300』(講談社)に取材記事が掲載されるなど、介護福祉についてポジティブな視点で発信している。

左手:橋爪 貴裕 様(経営管理部長) 、右手:糸永 健太 様(経営管理部)

▶︎記事の要約

滝乃川学園では知的障害児者施設を中心に多様な施設を運営しており、4年ほど前からICT化を進めるにあたって、ほむさぽを導入した。その後Wi-Fiの整備やスマートフォンの配布、見守りセンサーの設置に動き出すが、障害者施設特有の課題に直面し、ほむさぽとも相談しながら設置方法や機器選定を工夫した。今後は業界全体のICT化を推進し、障害者サービスに適したソフトウェアの充実を目指している。


ICT化へ歩みだすも直面した課題

中浜(以下、中):
今日はよろしくお願い致します。
障害者施設の方へのインタビューは初めてになるため、ほむさぽを導入するうえでの高齢者施設との違い等をお聞きできればと思います。

橋爪(以下、橋):
糸永(以下、糸):
よろしくお願いいたします。

中:
まずは滝乃川学園様に関して、改めて法人のご紹介を伺えたらと思います。

橋:
もともとは障害児の施設から始まったのですが、利用する子どもたちが大人に成長するにあたって、成人部という形で知的障害を持った方々の施設を立ち上げました。
現在では介護施設も1か所運営していますが、基本的には知的障害の方の施設として、日中の生活介護や子どもたちの放課後デイを運営し、地域ではグループホームという形で、直営と委託双方での運営を行っています。
利用者数は300名ほど、職員数も300名ほどになります。

日常のご様子

中:
お2人が所属している経営管理部というのは、どのような部署なのでしょうか?

橋:
2年位前から名称が変わったのですが、法人本部の中に経営管理部がありまして、さらにその中に3つの科があります。それが、会計科と設備科と庶務なのですが、設備科が法人内の設備とシステムを管理しているという形になります。

中:
お2人はどのようなきっかけで入職されたのでしょうか?

糸:
私はもともと経済学部だったのですが、福祉に興味があり、見学をしてみたところ好印象だったため入職しました。

橋:
私も営業職をしていたのですが、とても自然豊かな環境の中で働けることが魅力に感じ転職してきました。

中:
お2人とも、福祉ではない分野から就職なさったんですね。もともと法人全体の雰囲気として、他業種の方が入りやすい環境だったのでしょうか?

橋:
自立支援法に変わったころに、法人本部を設立し、採用全般も担うようになったのですが、ここ15年くらいは半数程度が福祉を学んできていない方たちが入職されています。そのような方がキャリアアップされていたり、比較的やりたいことをやらせてもらえる法人だとは思います。

事業所の敷地内の様子①
事業所の敷地内の様子②中:やりたい事というとどんなものがありますか?

橋:
高齢分野に比べて障害分野ではICT化が遅れていると思うのですが、それこそほむさぽさんを導入したいという話なんかも、今こうやって導入まで進められている事が、障害分野としては珍しいかなと思っています。

中:
障害分野の事業所では、なかなかICT化の話は聞かない印象がありますが、何年前からほむさぽを導入し始めたのでしょうか?

橋:
4年前にお話を聞く機会があり、はじめはICT補助金導入のコンサルをお願いするところからスタートしました。それまでは各々の事業所でシステム関係を対応していた事もあり、ICT化を一斉に行うことが難しかったのですが、法人本部の機能を一か所に集約し専門のシステム課も設置されていたという理由から導入をすすめることができたのだと考えています。

中:
どのような問題が導入のきっかけになりましたか?

橋:
基本的には糸永が窓口として動いてくれていたのですが、ここ2〜3年でパソコンのOSの更新に伴って、わからない事や自分たちだけでは解決できない問題が増えてきたことが大きかったですね。
また、ICT化に伴って昨年ぐらいからタブレットを導入したり、管理職にはSIMあり、常勤職員全員にはSIMなしのスマートフォンを配布しており、勤怠やグループウェアの対応をしてもらっていたのですが、その端末一つ一つの不具合にも対応しきれなくなってきていたというのもありました。

タブレットの導入で記録作業がどこでも実現できる環境へ。

障害者サービス特有の対応が必要に

中:
様々な課題に直面したことで、ほむさぽ導入に動き出したという事でしょうか?

糸:
そうですね。先ほどもお話したように、パソコンのOSの更新等、業務的に追いつかなくなってきたなというタイミングでほむさぽさんにお願いする事にしました。はじめは、タブレットやスマートフォン、Wi-Fiの環境を整えるなどを目的にコンサルをお願いしました。

中:
タブレットやスマートフォン以外では、現在どのような機器を使用されていますか?

橋:
指定補助金の方で、無線Wi-Fiを整備し園内全域で使用できるようにしました。また、請求ソフトと記録ソフトがクラウドではなかったため、クラウド型への変更や、見守りセンサーと体動センサーの導入を行いました。

中:
実際導入してみて、現場や利用者の方に変化はありましたか?

橋:
夜間の見守りシステムはとても好評でした。ただ、見守りセンサーをベッドの下に設置したのですが、障害の方はセンサーが気になって触ってしまう事があり、高齢者サービスと一緒というわけにはいかないなと感じました。

中:
障害者サービスならではの課題ですね。他にもあったのでしょうか?

橋:
他は、物を投げてしまう利用者さんもいらっしゃるため、無線LANは天井裏に隠す対応をしています。

糸:
そのような機器の選定や取り付け方の工夫は、ビーブリッドさんと業者の方含めて現場で色々すり合わせていったという感じでしたね。基本的に機器が外に出ている状態はNGだったので、そういうところも踏まえてビーブリッドの方がサポートしてくださったので、とても助かりました。

中:
同じ機器を使用するとしても、設置場所であったり等対応に工夫が必要になるんですね。

橋:
知的障害の方が多く、扉や窓が開いていると出て行ってしまう方もいたりするので、ネットワークカメラを扉に向けて設置しているという点も障害者サービスならではかと思います。やはり、子どもなどは転倒や転落ではなく屋外に出てしまう事の方がリスクが高いので、カメラは扉に向けるようにしています。


センサーの利用。目につかない配慮が必要。

障害分野におけるICT化の重要性と導入の工夫

中:
実際にICT化をされていく中で、障害者サービスにおいての必要性ってすごく感じられますか?

糸:
現場でいうと、以前は記録を打つためにパソコンがある場所まで移動して記録をしていました。ですが、どうしてもつきっきりで対応しなければならない場面があるため、現在はその場でタブレットによる記録が可能となり、だいぶ仕事の軽減になっているようです。

中:
利用者さんによってはマンツーマンの対応が必要になることがあるんですね。

糸:
みんなでドライブに出るという時も、その日に外出できない人が出てくると、スタッフが残ってつきっきりで対応になるため、そういうところの職員の負担軽減がICT機器によってできているかなと思っています。

中:
先ほどスマートフォンを1人1台お渡ししているというお話がありましたが、どのような場面で使用しているのでしょうか?

橋:
3年くらい前にハンコで行っていた出退勤をスマートフォンで行えるようにしました。その他はグループウェアでワークフローやスケジュール作成、回覧等が行えるようにしています。

中:
職員全員にスマートフォンを配布しているというのは、珍しいように思うのですが、なぜそのような対応にしたのでしょうか?

橋:
個人が持っているスマートフォンを使用してもらうと通信料の問題が出てくる事や、ウイルスによる情報流出なども懸念されたため、園内は法人のスマートフォンを使用してもらおうということで導入しました。

中:
ここ数年で様々なICT化に取り組まれたんですね。

橋:
あと、ひとつ他の施設と違うかなという点は、LOVOTというコミュニケーションロボットをICT導入補助金によって導入しました。それが利用者さんにとても好評で、コミュニケーションを生んだり、癒やしになっているようです。

中:
どのように使用しているのですか?

橋:
基本的には本部に置いておいて、使用したい施設のスタッフが持っていって使ったり、本部にスタッフが利用者さんを連れてきて触れ合ったりという使い方が多いです。児童の利用者さんにも成人の利用者さんにも人気です。


LOVOTが日常の中ででコミュニケーションをうんでいる。

中:
様々なICT機器やソフトを導入するにあたって、とてもスムーズに活用されているように思うのですが、何か工夫したことなどはありますか?

橋:
どの施設でも導入前後は必ず大変になるとは思いますし、うちも実際大変だったのですが、一つよかったなと思う点は、各部署の管理職ではなくITに強い人に集まってもらい、説明会等を行った事ですね。

中:
管理職ではない人たちに集まってもらい説明会を行うのは確かに珍しいですね。

橋:
そうなんです。でも自分たちの得意分野という事もあり、その説明会後から結構やる気になってくれて、自分の部署に広めてくれたり、わからない人にも教えてくれたり等とても活躍してくれました。私たちだけでは、なかなかできなかったことが周りの人たちの活躍によってスムーズに進んだことは、とても良かったと思っています。

中:
得意を生かすチームを作るという方法はとても真似しやすい方法かもしれませんね。

橋:
導入を決める過程はどうしてもトップダウンになるのですが、管理職でもITの機器やソフトが苦手な人はいるので、管理職側からしても、IT関係が得意かつ自分の信頼できるスタッフが入ってくれる事で、部下に伝えるときにとても助かったという声がありました。

福祉現場を理解した対応と提案による安心感

中:
現在ほむさぽのヘルプデスクを使用なさっていると思うのですが、利用頻度としてはどの程度なのでしょうか?

糸:
現場の方が直接ほむさぽさんに電話をかけてやり取りをして終了という流れなので、実際ここの事務所にいると、どれくらいの頻度なのかは把握できないのですが、IT機器やソフトに関する私たちへの連絡の頻度は明らかに減りました。

中:
お2人の負担としては、だいぶ軽減されたのでしょうか?

橋:
そうですね。休み明けなどは特に、IT機器やソフトの問題に対して対応しなければならない事が多く、どちらかがお休みをとっていると、その対応がとても大変でした。ですが、ほむさぽさんのおかげで、休みの間に問題を解決してくださっていたり、解決しきっていなくても、対応すべき点がわかりやすく限定されるため、それだけでだいぶ助かっています。

中:
職員さんにはどのような形でほむさぽ利用をアナウンスされていますか?

糸:
パソコン関係、スマホ、iPad関係からExcelの使い方まで何でもいいから直接質問してみてくださいとアナウンスしています。たまに私に質問が来た際には、一度ほむさぽさんに尋ねてみてほしいと案内をして、なるべくほむさぽさんを使ってもらうように促しているところです。

中:
お2人がほむさぽを使用する場面もありますか?

橋:
記録ソフトに関しては、数年前に一新したためこれまでの経験や知識がゼロになってしまったので、ほむさぽさんを頼る場面が多いですね。ほむさぽさんに尋ねたことは、履歴も取ってくれているようで、履歴が残っていれば同じ質問にはすぐ回答できる形の為、そこはだいぶ助かっています。

中:
以前どのような問い合わせをしたかまで、わかってくれているんですね。

橋:
そうなんです。そのため、どんどん使っていくと、どんどん解決も早くなるように思います。ほむさぽさんも障害者サービスのIT機器に関する情報として色々収集してくれているので、一緒に成長していっている感じがしています。

中:
他の会社でも同様のサービスはあると思うのですが、ほむさぽとどのような違いがあると思いますか?

橋:
一番は福祉現場を理解してくれている方が対応してくれるという点だと思います。どうしても福祉事業所は専門用語もありますし、一般的な企業とは困る部分も違い、そういった所も含めてわかってくれているという点で安心感が違います。

中:
他にも福祉現場を理解してくれていると感じた点はありますか?

橋:
今、人事考課のシステムを導入しようとしているのですが、やはり一般的な会社のシステムを導入しようとすると違和感が出てしまうというところがあり、社会福祉法人に特化したソフトウェアをご提案いただけるという点も、とても助かっています。

中:
なかなか、自分の法人、施設に合うソフトウェアを数ある中から見つけるのは難しいですよね。

橋:
そうですね。勤怠システムの時もご相談させていただいたことがあるのですが、社会福祉法人という事や、私たちのように様々な事業所を運営していると、シフトの種類も多く、複雑になってしまう中で、ほむさぽさんのこれまでの経験からどのようなソフトウェアがうちに合っているのかをご提案いただけたのはありがたかったです。

ネットワークの構築とサポートがある環境で仕事の効率化の向上へ

業界全体のICT化がよりよいソフトや機器を生み出す

中:
今後も様々なICT化やDX化に取り組まれていくかと思うのですが、今後取り組んでいきたいことはありますか?

橋:
現在は国立市の同じ敷地内に複数の事業所があるのですが、来年から新宿の方に初めて事業所を開設する予定のため、ますますICT化が必要になってくるなとは考えています。サーバーのクラウド化や、経費精算システムの導入など、せっかく法人本部が一つになったので、事務を置かなくてもICTの活用でうまく回るというくらいに活用していきたいです。

中:
拠点が様々な場所に増えると、よりICT化が重要になりますね。

橋:
私個人としては今後のICT化に向けて研修を受けたいなと考えています。それこそ、先ほどお話したIT機器関係に強い職員もいるので、福祉の技術や知識の勉強だけでなく、こういうICT化やDX化に関する知識に関しても、今後積み上げていってもらえるようにしたいなと思います。

中:
ICT化をすすめるにあたって、知識がある人が増えることは大切ですね。

橋:
私は東社協の事務スタッフ会の幹事を行っているのですが、知的障害施設の事務スタッフに向けての研修会などを行う際にICT化について聞いてみたところ、取り入れている法人さん自体がとても少ないのが現状です。そのため、障害者サービスを提供する事業者のなかでICT化をどんどん広げていければと考えています。

中:
ICT化は障害者サービスを提供する事業者全体の課題ですね。

橋:
ICT化が広がることで需要が上がり、障害者サービスに合ったソフトウェアが出てきてくれたらいいなと思いますね。

中:
障害者サービスに合うソフトウェアというのは少ないのでしょうか?

橋:
どうしても障害者サービスは個別性が高かったり、種類も様々なため、なかなか使いやすいソフトウェアというものが無いというのが現状です。特に移動支援は市区町村が行っているため書式が独自のものになりやすく、請求ソフトに反映されていないことが多いため、ICT化を業界全体で進めることでそのようなサービスに合ったソフトウェアが作りだされてくれればと思います。

中:
障害者サービス業界全体でICT化を進めていくことで、よりソフトウェアや機器が充実すれば、とても良い連鎖が生まれていきそうですね。今日はお時間いただきまして誠にありがとうございました。

送迎常務の様子

◾️聞き手、中浜のあとがき

高齢者福祉に比べるとまだまだICT化が進んでいない障害者福祉は、個別性の高い配慮が必要な中で、多くの方に活用する方法を考える必要がある等様々な課題があるのだと感じました。
だからこそ、福祉の現場や障害者福祉特有のリスクを理解してくれているという前提のもと、機器の選定や、ICTに関する相談ができることは最大の安心に繋がるのだと思います。
障害者福祉分野であっても「お客様と向き合うことに時間をかけたい」という想いは変わらず、その想いがお客様の安心安全な暮らしに繋がり、働く職員にとってはやりがいにつながるのだとすれば、障害者福祉分野においてもICT化を進めていく必要はあるのだと再確認いたしました。


施設の外観

社会福祉法人 滝乃川学園ウェブサイト


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