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手のひらが腫れあがっても拍手を止められなかった_カーチュン・ウォン×日本フィル「マーラー:交響曲第9番 ニ長調」_2024年5月11日
手のひらが腫れあがっても、拍手を止められなかった。
カーチュン・ウォン指揮、日本フィルハーモニー交響楽団による「マーラー:交響曲第9番 ニ長調」を聴いてきました。
第4楽章の最後で、それまでやわらかく広げていた両手を、カーチュン・ウォンはゆっくりと身体の前で集めていった。
一筋の淡い光のようだったヴァイオリンの音も、同時にその輪郭を解かし、やがて糸の先のように細くなっていく。
カーチュン・ウォンが胸の前で両手のひらを静かに合わせた瞬間、音は耳で捉えることができなくなった。
ひとつの世界が閉じられた瞬間ーー。
永遠の安息のような長い沈黙の後に、カーチュン・ウォンがゆっくりと両手を下ろすと、会場に割れんばかりの拍手がとどろいた。
そしてそれは、何度カーチュン・ウォンがステージに戻って応えても、楽団員の最後の一人がステージを下りるまで止むことはなかった。
もちろん私も、あふれ続ける涙を拭うのも忘れて打ち続けていた。朦朧としたままホールを出て、エスカレーターで1階に下りている途中で、手のひらの痛みでようやく我に返った。
手のひらは赤く腫れあがっていた。
カーチュン・ウォンが胸の前で両手を合わせ、音が耳に届かなくなったとき、私は「死」ではなく「輪廻」を感じていた。
肉体の寿命が尽きても、魂の歴史は続く。あの沈黙にも確かに”音楽”が在り、終演から何時間か経った今もなお、皮膚の内側にあの音楽が巡り続けている。
カーチュン・ウォンの姿は、まるで祈るようだった。
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■自然の中で神の存在を感じるときの、安堵と畏怖の感情を呼び起こす金管の音色
ホルンとヴァイオリンの会話のような、ソナタ形式で描かれる第1楽章では、標高の高い山頂で目に映る、世界や心の動きの美しさを見た気がした。
長い時間をかけて厳しい坂を登り、ようやくたどり着いたのだ。金管楽器の音色は、自然の中で神の存在を感じるときの、安堵と畏怖の感情を呼び起こす気がする。
風が木々を揺らし、雲が流れ、ゆっくりと日が暮れていく。
夜明けを迎えた第2楽章では、様々な動物たちが目の前を通っていく。小鳥やリス、ウサギもいれば、バッファローも見えた。
レントラー(南ドイツの民族舞踊)とワルツが交互に登場する楽章だ。なんとも可愛らしく、動物たちと一緒に踊り出したくなる。
第3楽章では、すべてが人生の縮図であったのだと理解した。
ハープの透明な高音は、小さな頃に祖母にかわいがってもらった、あたたかい記憶。そして、ハープの太い低音の迫力には、まさかハープにこんな響きがあるものかとドキリとしたが、それもこれもハープなのだ。かつて人に対する先入観が外れて、視野が広がった日のことを思い出した。
目に映るもの、聞こえるもの。それらが呼び起こす感情たちは、思い返せばすべてが愛しい。
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■感情を一つひとつ慈しみ、光をあてるような両手の動き
第3楽章が終わると、カーチュン・ウォンは台を下り、床にそっとタクトを置いた。
第4楽章は、タクトを使わずに両手で指揮をしたのだが、その繊細な動きはまるで、感情を一つひとつ慈しみ、光をあてていくかのようだった。
冒頭から涙が溢れて止まらなかった。
すでに多くの方々がSNSに書かれているように、あまりにも素晴らしい演奏でした。
私の人生に音楽があることを、心から神に感謝します。
幸福です。幸福です。ありがとう。
(長文をお読みくださり、ありがとうございます)
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【ききみみ日記】
★今回で投稿151回目になりました★
オペラ・クラシック演奏会の感想をUPしています。是非お越しいただけますとうれしいです。
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(2022年10月10日~2023年1月15日まで101回分を毎日投稿していました)