『アンドベース』が生まれるまで
「せっかく相談に来てくれたのに何もできなかった…」
大阪でホームレス状態の人や生活困窮状態の人のサポートを2010年から行っている認定NPO法人Homedoor。立ち上げ当初、スタッフはみんな大学生。SOSを発信してくれた人たちに対して、できることは多くあったとは言えませんでした。忸怩たる思いを抱きながらも活動を続け、設立から13年の月日が経ちました。
まず「身分証がなくても、携帯電話がなくてもできる仕事」としてシェアサイクル事業・HUBchariを2012年に開始し、翌年には大阪市内での夜回り活動の開始に伴い野宿をしている人たちからの生活相談を受けるようになりました。
ネットカフェを生活の拠点としている人からの相談も、2015年ごろからちらほらと見受けられるようになりました。しかし「今日寝る場所がなくて困っている」という人たちの声に応えられず、公的機関などを案内することしかできませんでした。せっかく相談に来てくれたのに、「今日は帰っていただいて、明日一緒に役所に行きましょう」としか伝えれず、帰る場所のない人に今日は帰ってほしいと言わないといけない環境にやるせなさと不甲斐なさを覚えました。
どんな状況にある人でも、希望を感じられる選択肢を
2017年になると、新規相談は年間およそ300名と前年度の倍ほどに。野宿をしている人だけでなく、寮から追い出されてしまった人や友人宅に身を寄せている人など、以前より多様で複雑化した相談が増えました。相談者の年齢も全体の1/3以上が30代以下となりました。野宿の経験がない若年層の増加により、シェルターニーズの高まりを感じました。
「お金もないし、何もできなくて、このまま死ぬしかないのかなと思ったけど、最後にダメもとで相談してみようかなって来たんです」と、悲痛な本音を相談時に吐露してくれた人もいました。Homedoorが大事にしていることのひとつに「選択肢を選べる環境をつくる」ことがあります。所持金が少なく、住まいに困窮すると、いくつかの選択肢の中から選ぶということが出来にくくなります。制度の狭間にいる人たちが生きやすくなるように、今はまだない選択肢を新たに創造していくことが重要なのだと、現場にいると日々感じます。
そんな思いを胸に、2018年に18の個室があるシェルター【アンドセンター 】をつくりました。大阪市には市が設置しているシェルターはありますが、個室ではないため、プライベートな空間はありません。しんどい時こそ、安心して休める環境を持てることはとても重要だとHomedoorでは考えています。民間のシェルターになるので、毎月1000円の寄付をしてくださるサポーターを1000人集めて運営をしています。
短期型シェルター 【アンドセンター】の限界
アンドセンター開設から5年が経ち、1,100名以上に16,000泊を超える宿泊場所の提供ができています。「今日から個室で泊まれますよ」と言えるようになり、「相談に行ったその日から個室の部屋を無料で提供してもらえて助かりました」との多くの声をいただいていますが、課題も見えてきました。
短期滞在を目的とした施設のため、長期滞在の必要がある人が増えると、シェルターの回転率が下がってしまい、新規の受け入れが難しくなってしまいます。また5階建てで階段のみのため、高齢や障害により階段の上り下りが厳しい人には宿泊が難しいことや、住所が公開され誰でもアクセスできる環境のためDVなどから逃れてきた人たちに宿泊してもらうには不安がありました。
2020年にはコロナの影響もあり、新規相談が1,100名を超えました。宿泊希望者はどんどん増え、18の個室が満床になってしまうことも頻繁にあり、そういった時は近隣ホテルの手配をしてきました。宿泊が必要な人には隔てなく寝床の提供をしていきたいのですが、ホテル代の高騰により割安なホテル探しも一苦労…という日々が続いています。
5億円をかけてシェルター運営をする覚悟
続く満床状態、広がっていく相談者の層を考えると、アンドセンターだけでは手詰まり感が出てきました。そろそろ次のシェルターも考えていきたいと思って土地や物件を探すも、大阪ではまとまった土地や一棟まるっと市場に出ている物件はなかなかありませんでした。見つかったとしても、即買い手が決まってしまい、内覧にすら行けない状況が続きました。
「諦めたほうがいいのかな」と思っていた、まさにその時。夜回りでお弁当の提供をしてくれている【居酒屋てつたろう】さんのお知り合い経由で、新規物件の連絡がありました。
立地や内装の綺麗さ、部屋の数などを考えるとこの物件が良いのではないかと思いつつも、土地・建物代をあわせて約5億円と簡単に手が出せる金額ではありませんでした。購入が現実的なのか、また施設運用はできそうなのかについてスタッフや役員とも何度も時間をかけて話し合いました。今までにない大きな金額、大きなプロジェクトで不安もありましたが、「やっぱり、今よりも選択肢をより増やしていきたい」という思いはみんなに共通していました。
コツコツ貯めてきた施設整備積立金を取り崩し、はじめての融資を受ける覚悟を決めました。そして2023年春、ついに物件を手に入れることができました。エレベーター付の24の個室、冷暖房・ユニットバス完備、オートロックあり、さらになんと嬉しい築浅なんです。
人生の転機だったな、と思い返してもらえるような場所を目指して
Homedoorの13年の活動の成果であり、ビッグチャレンジの舞台となる場所を【アンドベース】と名付けました。アンドセンターと同じく、安堵できる場所であるように。そして、人生にどんなつまずきがあったとしても、あなたには再出発の基盤・土台(BASE)となる場所があるんだよと希望を感じてもらえるように、そしてワクワクする基地のような場を提供できるように。
生まれや育ち、心や体の状況、関わってきた人やその時の環境などはひとりひとり異なります。人生、ずっと最高潮!なんて人はいません。誰だって、つまずくことはあると思います。ふとした拍子に、つまずいて自分の土台が壊れたりヒビが入ってしまったとしても、修復したり一からつくり直したりする時間があって良いんじゃないでしょうか。立ち止まってみることも、これまでの人生を振り返ることも、長い目で見れば大事なことです。
しかし、住まいや仕事を失うかもしれないという焦燥感のなかにいる人には、余白があまりにも少ないのです。「風邪をひいて仕事を休んだら、生活が回らなくなってしまうから無理してでも働かなきゃ」と立ち止まることなんてできない常にギリギリの環境にいる人もいます。いざお金も底をつき、頼れる人もいなくなってから、どこかに相談しなきゃと焦って相談先を探す人がほとんどです。時間や余裕がなくなると、甘い言葉に誘われて判断を誤ってしまう人もいます。
生活が破綻したり、心身が限界を迎えたりするもっと前に、Homedoorにたどり着けるしくみをつくり、それぞれが「本当はどんなことをこの人生でしていきたいのか」を考える余白の時間をアンドベースで提供していきたいと考えています。数年後、数十年後、「あの時アンドベースに行けたことが人生の良い節目になったな」と思ってもらえるような場所になれたらと考えています。
アンドベースは制度の狭間にいる人たちのサポートを行うために、新たに立ち上げたシェルターです。公的な支援が届きにくい人たちに住まいや食事を提供し、社会福祉士やキャリアコンサルタントなど専門の資格を有するスタッフがこれまでの状況を伺いながら、生活や就労のサポートを行っています。
相談に来られた方は生活困窮状態にあるため、シェルターの運営や生活支援にかかる費用は個人の皆様、企業の皆様からのご寄付によって支えられています。
アンドベースは24の個室があり、継続的な運営を行うには新たに3,000人のサポーターが必要です。毎月1,000円からできる継続的なサポートをしていただける方を募集しております。ぜひアンドベースを支える1人になっていただけると嬉しいです。以下の特設ページよりご寄付いただけます。
アンドベースには対象者が大きく分けると三つあります。どのような人たちにどのようなことを提供していくかは、また別の記事でお話しできたらと思っています。
ぜひ、5億円をかけたチャレンジを応援してください!
お読みいただきありがとうございました。いただいたサポートは、生活にお困りの方への支援として使わせて頂きます。