そんな関係、それくらいの糸
酔った時だけ電話する。そんな関係の人がいた。
酔ったことを理由にしないと電話できない、そんな関係の人。
好きかどうか分からないけど。でも、電話したいと思ってしまう人。
飲みに行く予定があると、「電話の口実になる」と心が弾んでしまっていたから、たぶん、その頃にはもう忘れられない人になる予感はしていた。
出るかな。って、ドキドキしながら呼び出し音を聴くのも好きだった。
「もしもし?いま大丈夫?」
「うん、大丈夫やで。外?」
「そう、電車降りたとこ」
「おー、バイト?飲み?」
「飲み行ってた」
「おーいいやん、何食べたん」
駅を降りてから家に着くまで電話する。それがお決まりだった。
わたしが何を食べたか、誰と飲んだのか、最近何してたのか。気になってくれることが嬉しくて、口角が、上がる。くいっと。上がる。
家に着いても電話は続いて、それが、お互いこの時間をまだ、終わらせたくないサインだった。
「そろそろ寝るか」
それを言うのはいつもあの人で、わたしではない。
少し寂しくおもいながら、平静を装って
「ごめん、もうこんな時間だったね。もう家着いてるんだよ」
「知ってるよ!鍵の音してたわ」
それにちょっと嬉しくて、軽く笑いながら電話を切る。
電話が途切れる音を聞かないように、そっと携帯を離して、切る。
それだけの関係。簡単に切れるような関係だから。繋ぎ止めるものは何もなかったんだ。