「初めて」ってやつは厄介で、
言葉を聞くと、曲を聴くと、似た服装を見ると、お店の前を通ると、全てを思い出す。鮮明に。
これが永遠に続くのだろうか。
この蝕みみたいなものは、永遠にまとわりつくものなのだろうか。
つらいのに、涙が出るのに、居心地がいい気がして、むしろ手放せていないのはわたしなのか。
初めてというのは厄介で、とてつもなく平凡でも、嫌な思い出でも、不必要なものでも、退屈なものでも、どこか特別に思えてしまうもの。
私は不運にも、初めてを埋めてくれたのはあの人だった。
お互いティーンエイジャーだったし、一緒にハタチを迎えた年でもあったから、尚更。
全てが特別に思えて、嫌なことはすぐに忘れる性分のはずなのに。
未だに鮮明に覚えている。
季節関係なく、彼といたあの時間は私の人生にとって間違いなく夏で、暴力的に楽しくて、特別で、愛おしく、辛く、悲しく過ぎていった。
何を食べてもおいしくて、何をしても楽しくて、何をするにも彼だった。
初めてというのは厄介で、ここまでわたしを魅了するらしい。
でも、その居心地の良い呪縛から解放されようと思う。
きっかけは引越し。
それだけ。
思い出はすべて置いていく。
どうしてもまた思い出したくなったときは、戻ればいいだけ。
もう多分会うことはないその思い出たちと
さよならをする。
夏は、あのときのことだけを言うのではない。
これからだってきっとくる。
酔っていられるのは10代まで。
地に足つけて歩くんだ。