調理師免許/カラオケ/ノーベル文学賞
◆夏ごろに受けた調理師試験の結果が出た。合格。
調理師免許の申請のためにはこれから、住民票と大麻やアヘンをやってませんよという証明書(1万円弱)と6800円の収入証紙が入用らしい。高いな。試験に受かったんだから気前よく交付しやがれ。読んでいるか鈴木直道北海道知事。お前に言っているんだぞ。
とりあえずは、住民票をもらいに役場に行った。すると六十人待ちだという。馬鹿にしやがって。ちんたら仕事をしてるんじゃねえ。仕事はスピードが命だ。代わってやろうか? まあ、とりあえず整理券を受け取って、待つ。しかし遅々として自分の番号にならない。スマホで、「住民票 もらう」と調べてみた。すると札幌市はコンビニのコピー機でも印刷できるみたいだ。やればできるじゃねえか鈴木直道。
私は近くのセブンイレブンに入って、マイナンバーカードを使って住民票を手に入れた。あーあ、ひと仕事終わったわいと家に戻る。帰宅して、あらためて札幌市の調理師免許申請方法を書いているサイトを見ると「提出書類:住民票」の欄に※印で、本籍地が書いてあるもの、と注意書きがあった。改めて印刷した住民票を確かめてみると、本籍地の欄が謄写省略、となっている。勝手に省略するな! そこが一番大事だろうが。詰めが甘いぞ鈴木直道。印刷だってタダじゃないんだ。まあ、コンビニで印刷できることが分かったので、こんどまた暇なときにでも印刷しよう。
◆ソシャゲ「学園アイドルマスター」が、カラオケのまねきねことコラボしているらしい。そこでしか買えないグッズや、コラボドリンクを売っているという。私は学マスをやっている友人を誘って、まねきねこに行くことにした。
店頭で案内を受ける。学マスのグッズは……と尋ねると、もう大半が売り切れてしまっていた。残っているのはクリアファイルくらいしかないという。そんなに札幌にも学マスユーザーがいるのか。舐めるなよ、にわかどもが。こちとらリリース初日からプレイしている古参だ。店員の前で学マスを開いて俺のSランクメモリの数々を見せて情熱を伝えようかと思ったがやめた。最近はログボしか貰ってないので。
コラボドリンクはまだ提供中だという。それには学マスに登場するヒロインのフォトカードが全12種ランダムで付いてくる。注文した。私は普段の行いが良いので、きっと紫雲清夏という目当てのヒロインを引けると信じている。俺の愛を、舐めるな。
果たしてまだ実装されていないキャラを引いた。かわいいから許した。友人は篠澤広だった。まあ、めいめいそれなりに満足した。二時間ばかり歌いまくる。
歌い終わって、腹が減って、飯でも食おうかとなった。私はかねてより気になっていたタイ料理の店に行きたいと言った。以前、スーパーの弁当で新発売のシールを張られたカオマンガイを食べてから、そのあまりの美味さに、本格的なやつを食ってみたいと思っていたのだ。あいにくスーパーのカオマンガイは、二週間ほどすると販売されなくなってしまった。あんなに美味しかったのにね。
狸小路にある店に着いて注文する。あまりお客さんが多くなくて、居心地のいい雰囲気だった。頼んだ品はすぐに来た。
それがまあ美味しくって、私がタイに生まれていたら一日一食これを食べていたに違いないと思った。タイ米はほろほろと、チキンも香ばしく、夢中になって食べた。人はみな、自分の中で美味しい料理ランキングを持っている。カオマンガイは私のなかでオムライスを押しのけて2位になった。1位は不動の麻婆豆腐である。麻婆豆腐は不味く作ることが不可能な唯一の料理なので。豆腐はいつも強い。
ぜんぜん、人生最後に食べる料理がカオマンガイでもいい。朝にオムライスを食べて、昼にカオマンガイを食べて、夜に麻婆豆腐を食べて、そして死にたい。
当のタイ料理屋にはカオマンガイ以外にもガパオライスやグリーンカレーなど聞きなじみのある料理から、なんだかよくわからん名前の料理もあった。どうせ一人でまた行くだろうから、ぜんぶコンプリートしたい。タイ料理、最強すぎるな。
◆友人と別れて、本屋に行った。先だって今年のノーベル文学賞が発表されて、その白羽の矢が、ハン・ガンという韓国の女性作家を射たのである。これはもう、アツい。去年はヨン・フォッセという戯曲家が受賞して、あいにく当時は邦訳がひとつもなかった。最近になって、ハヤカワあたりからフォッセの戯曲集が刊行されている。私も以前、「誰か、来る」という作品を読んだ。良かった。惜しむらくは戯曲なので実際の舞台で観てみたかった。北海道ではそんなこと叶うべくもないけれど。
しかし今回のハン・ガンは、小説畑の作家で、邦訳がすでに何冊かある。私は名前くらいしか知らなかったし、韓国文学はファン・ジョンウンという作家のものくらいしか読んでいなかった。しかしこうしてノーベル文学賞を獲ったからには、読みたくなるのが人情だ。いそいそジュンク堂に向かった。韓国文学の棚を見てみると、ハン・ガンのところだけすっぽり空白だった。念のため店内の在庫検索をしてみても、ない。私はいよいよレジに行って、店員の前で私はノーベル文学賞受賞のはるか前からハン・ガンを知っていたんだと叫ぼうと思った。舐めるなよ、にわかどもが。こちとら人生の過半を読書で過ごしてきたんだ。俺に「菜食主義者」を読ませろ! は行の韓国作家の欄を追うと、ファン・ジョンウンの「百の影」という新刊があった。奥付を見ると去年の11月の出版である。にわかは私だった。私は黙って「百の影」を手に取った。もっときちんと韓国文学を追っていればよかったね。
韓国文学はチョン・セラン「アンダー、サンダー、テンダー」を読んでハマった。当時はほとんど斎藤真理子という訳者が訳していて、邦訳もそう多くはなかった。ハン・ガン「菜食主義者」は韓国文学シリーズみたいなものの、その第一作に選ばれていたと記憶している。私は下らない逆張り精神を発揮して、ファン・ジョンウンを選んで、それから彼女にのみ心酔していた。ファン・ジョンウンもきっと逆張りではないほどに小説の名手、「野蛮なアリスさん」はもう、絶品だった。ともあれ当座に私がもうすこし素直であれば順当に「菜食主義者」を読んで、今頃ハン・ガンのノーベル文学賞受賞をさもありなんと後方腕組彼氏面で喜べていただろうに、惜しむらくは読んでいないから腕を組めない。まあ、ノーベル文学賞を獲ったことだし、文庫でも邦訳が出るかもしれない。本を読む楽しみがまたひとつ増える。
閑話休題。
ファン・ジョンウン「百の影」を抱えながらジュンク堂の地階にあるレジにまで向かう。地下二階は芸術・絵画や料理の本のコーナーだ。ちょうど調理師免許も獲れることだし、いっちょ自炊、するか。そう思って、何事も本から私は始めるので、料理本の区画に足を踏み入れた。何冊かざっと見て、私みたいな名ばかり調理師でもまあ見てくれは良さそうなものを作れそうな本を選んだ。
石原洋子、と検索したら、Twitterをやっていなかったので、信頼できると思った。カオマンガイの作り方とか載ってるかなと思ったがない。でも麻婆豆腐はあった。石原洋子は信じられると感じた。レシピに使う材料も簡単に手に入るものばかり書いてくれている。レシピ本はどれもそうなのかもしれないけれど、私はとんとこの分野には明るくないから、ひな鳥が初めて見たものを親鳥と思うみたいに、石原洋子を師と仰ごうと念じた。何事もとりあえず一歩踏み出すことが大切なのだった。石原洋子、私に料理のいろはをおさらいしてくれ。
本の末尾のほうにある、料理のノウハウを書いた箇所――「気づいたら、すべておかずがしょうゆ味! ってことが多いです。」というところには、まったく共感した。私も作るもの作るものすべてしょうゆ味だ。石原洋子はそれに対して、調味料ベースでつくるものを考えてみたら、と様々に提案している。自炊しなれた人間には何を当然のことをと思われるだろうが、あいにくこちとら貧しい一人男所帯、料理にはてんで門外漢なのだった。毎食毎夜コンビニ弁当やスーパーの総菜でその日その日を食いつなぎ、たまにする自炊といえばクックドゥの素を使った麻婆豆腐くらいだ。石原洋子、調理師になったばかりの私を導いてくれ。私は聖書を紐解くように石原洋子の料理本を読み始めた。
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