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PERCHの聖月曜日 115日目

第一、油絵は日本画に比べるとはるかに写生的であるが、しかし写生は絵画の善美の基本ではない。むしろ写生を重視して絵画の本質である「妙想」(idea)を見失うのは、絵画の退歩であり、近年の欧州の画家や日本の応挙などはこの弊に陥っている。
第二、油絵には陰翳があるが、、日本画にはそれがない。物には本来陰があり、物を描く以上陰を描くのは当然のようだが、しかし絵画ではかならずしも陰翳がなくても構わない。むしろあまり科学的に陰翳を追求すれば、それに力をとられて、「妙想」を発揮し得なくなる。その点日本画はわずかの墨だけで「妙想」を現わし得る。
第三、日本画は輪廓線を用いるが油絵にはそれがない。むしろ現実の物にははっきりした輪廓線などないが、実物の写生的支配を受けない絵画においては、それは線の美しさを増し、「妙想」を精確に表現する長所がある。欧米の画家でも近年輪廓線を用いるようになった。
第四、油絵は日本画に比べて色彩の豊麗濃厚を誇るが、色彩は絵画の全部ではない。あまり豊富な色彩に没頭して「妙想」を忘れてしまっては何にもならない。
第五、油絵は繁雑であり、日本画は簡潔である。そして、簡潔な方が画面全体の統一を得易い。
すなわち、以上の五点いずれにおいても、油絵より日本画の方が優れているというのがフェノロサの結論である。

ーーー高階秀爾「フェノロサ」『日本近代美術史論』講談社,1990年,pp211-212

Northeaster
Winslow Homer
1895; reworked by 1901

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