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歌は終わりぬ

The song is ended
Text Hola Angero
Photograph Masaaki Tanaka

「もう終わりだって」
こどもタッチ⽔槽の前でさちこが⾔った。
「え? ⽔族館はまだ終わりの時間じゃないよ」
「ちがうよ。かえるさんがそう⾔ってるんだよ」
「さちこはかえるさんの⾔葉がわかるのかい?」
「お⽗さんにも聞こえるんじゃない?」
「もう終わりだよ」確かにかえるはそう⾔った。


隣の部屋に⾏くと、いるかも⾔った。
「もう、終わりさ」
「いったい何が終わりなのさ」
「ニンゲンだよ」
「なぜ、ニンゲンが終わりになるんだい?」
イルカはくるりと⽅向転換をして⾔った。
「ニンゲンがばかだからだよ」


「ばかとはなんだ」
「だってばかだよ。まず⾔葉がなければ話しができ
ないなんて、ばかの証拠さ。そんなことをしてるから、
みんなバラバラのことを考えてるのさ」
「いるか、そういうお前らはどうなんだ」
「ぼくら動物や植物は思念でつながっている。思え
ばお互い理解する。ふつうそうだろ?」


「もうひとつ致命的にばかなところは、科学の使い
道がまるきり間違ってることだ」
いるかは容赦無く⾔い放った。
「科学を便利のために使っている。便利の⼤きさは
危険の⼤きさに⽐例するという利便⼀定の法則をわ
かってない。それってリスクの基本だろ?」
そしているかは厳しく⾔った。「だから終わりだ」


「悪いけど、これは動物と植物の総意なのでね」
「どうするんだ。ニンゲンを滅ぼそうってのか?」
「いや、ただ終わりにするだけさ」
私はさちこを連れて⽔族館を出た。
外は何事もなく、⼣暮れを迎えていた。
そのとき、ぱらりという⾳がした。世界の津々浦々
に響いた。何かの「譜⾯」がめくられたのだ。


「譜⾯」がめくられると、もうニンゲンは終わっていた。
絶望もないかわり希望もなくなり、それでも毎⽇は変わ
らず続いていく。
でも確かに、全ては完全に終わっていたのだ。


The Song Is Ended (but the Melody Lingers On)
歌は終わりぬ。されど旋律は続く。
アーヴィング・バーリン

PICTURE BOOK STUDIO #005
2024.11.19

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