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新しい極刑

New extreme punishment
Text & Illustration : Hola Angero

長らく、人を罰する最も重いペナルティは死刑だったが、科学のめざましい進歩によって、新たな刑罰が発明された。死刑はまだ継続している生の状態を強制終了させるものだが、この刑罰は生でも死でもない第三の状態に人を追いやる。それは、人の存在をマウズマブリックス空間に転移させ、時間と空間から切り離すことを意味している。


人類で初めて新型の極刑に処されたのは、ムエルトエルド・F・プーツ神父だった。神父は、植民惑星コルコス独立運動の英雄だ。プーツ神父たち先住人類は、3月30日の日曜日の朝、物理的武器と電子プラカードを掲げて蜂起し、「悪政を倒せ。地球へ帰れ」と叫びながら公的電子空間の行進を始めた。この行進には多くの先住人類が参加し、独立戦争の引鉄となった。


数年に及ぶ第一次独立戦争は、結局、先住人類たちの敗北に終わる。ムエルトエルド・F・プーツ神父は逮捕され、裁判により懲役2000万年の刑が言い渡された。政府軍でプーツ神父ら反乱軍討伐の中心となったコルスタンツ・クルエルシー将軍は、ほっと胸を撫で下ろし、自慢の髭の先によりをかけ捻りながら勝利の酒に酔いしれた。


だがそれは時期尚早だった。独房に入っていたプーツ神父は、ある方法でSNSにアクセスし、コンスタンツ・クルエルシー将軍および政府の悪行を暴き続けたのだ。搾取、人種差別、信仰弾圧、民族浄化、贈収賄、詐欺、民族単位のレイプ、などなど。それは惑星内に留まらず、惑星間、銀河レベルで拡散し、コルコス政府非難の大きな火種となった。


慌てたクルエルシー将軍は急いで余罪をでっちあげ、プーツ神父を極刑に追いやった。「死人に口なしとはいうが、プーツは神父だ。ただの死刑ではどんな秘術によって亡霊となり、SNSを続行するやもしれぬ」というクルエルシー将軍の主張により、発明以来200年間陽の目を見なかった、新型の極刑が採用されることになった。



処刑の日。特製銃の銃殺隊の前に神父を立たせ、クルエルシー将軍自ら射撃号令を発した。司祭平服に銃の数と同じ数の風穴が穿たれ、神父は絶息した。だが何ということだろう。神父のデスマスクには屈託のない微笑みが浮かんでいたのだ。第三の状態は、辛くないのか? 楽しいのか? 気持ちいいのか? 疑念に囚われた将軍は、しばらく眠れぬ夜を過ごすことになる。



PICTURE BOOK STUDIO #007
2025.1.3

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