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化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く)は、年間450件程度で推移していますが、その原因となった化学物質は、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障予防規則などの特別規則で規制されていない化学物質によるものが約8割を占める状況にあります。このような背景を踏まえて、令和4年に労働安全衛生法の政省令が改正され、特別規則で規制されていない化学物質のうち、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された2900物質すべてについて製造・取り扱う事業者は、リスクアセスメントを実施し、その結果に基づいてばく露が最小限度となるための措置を事業者が自ら選択して実施する制度が導入することになりました。

化学物質は労働安全衛生法でどのように扱われていますか?

化学物質は労働者に健康障害を生じさせる恐れがあるものについて、労働安全衛生法により以下のように分類されています。
①製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されているもの(法第55条) 8物質
②製造に際し、厚生労働大臣の許可を受けなければならないもの(法第56条) 7物質 特化物第1類
③製造・取り扱い上管理が必要なもの(特化則、有機則) 123物質
④ラベル表示義務・SDS交付義務・リスクアセスメント義務のあるもの(法第57条) 674物質
⑤GHS分類で危険性・有害性がある物質→ラベル表示義務・SDS交付義務・リスクアセスメント努力義務 数万物質

特定化学物質とはどのようなものですか?

特定化学物質とは、労働者に職業がん、皮膚炎、神経障害などを発症させる恐れのある化学物質で、令和5年7月現在75種類の特定化学物質及びこれに準ずる4物質が特定化学物質規則により規制されています。

化学物質による健康障害の予防対策について

①がん原性物質、あるいはベリリウム肺を起こすベリリウムについては、製造設備の密閉化、作業規定の作成などの措置を条件とした製造の許可を必要とし、「第1類物質」とされています。
②作業環境空気中濃度を一定基準以下に抑制し、慢性的障害を予防するため、製造もしくは取り扱い設備の密閉化または局所排気装置等の設置などの措置を必要とするものを「第2類物質」とし、特定第2類物質、管理第2類物質、オーラミン等、特別有機溶剤等、特別管理物質が含まれます。
③主として大量漏洩事故の防止措置を必要とする「第3類物質」に分類して、健康障害の防止措置を規定しています。

一酸化炭素中毒とはどのようなものですか?

1 一酸化炭素中毒とは

一酸化炭素は特定化学物質障害防止規則の第3類物質で、不完全燃焼状態で炭素化合物が燃焼する際に発生し、無色・無臭で、その存在が感知しにくい気体ですが、空気とほぼ同じ重さ(比重(空気を1としたときの重さ):0.967)で、強い毒性を有しています。一酸化炭素は、赤血球中のヘモグロビンと結合しやすく、このため一酸化炭素を吸入すると血液の酸素運搬能力が下がることにより一酸化炭素中毒が起きます。一酸化炭素中毒は、軽度の頭痛、吐き気等からはじまり、その後、昏倒、致命傷に至るため、無意識のうちに被災するという特徴があります。

災害が発生しやすい場所としては、換気が不十分な場所における火気の使用や、冬場の土木作業における練炭によるコンクリート養生作業、トンネル等におけるガソリンエンジン、発電機の使用、換気の悪い場所でのエンジンの空ふかしなどがあります。冬場に鍋物等の火気を使用した煮炊きをし、同時に飲酒等により酩酊状態となると、一酸化炭素中毒の初期症状を見つけられず、その後の症状がより重篤なものとなる危険性があります。

2 一酸化炭素中毒の防止

一酸化炭素中毒を防止するためには、火気や内燃機関を使用する際は換気を十分に行うこと、地下室やトンネル内等で十分な換気ができない場所ではこれらを使用しないことが重要であり、動力を必要とする場合には事前に綿密な安全対策を立て、関係者間で十分に連絡をとりながら作業を行うことが強く望まれます。

発がん性物質とは、何ですか?

新たな化学物質規制において、厚生労働大臣が定める「がん原性物質」については、作業記録及び健康診断の結果等について30年保存しなければならないとされている。この「がん原性物質」の範囲について、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」(令和3年7月公表)では「GHS分類で発がん性区分がある物質」としているが、30年保存は事業者にとって負担が重いため、明確な根拠が必要である。国によるGHS分類の結果、発がん性が区分1(区分1A又は区分1B)に分類されたものとする(約300~350物質)。一方、現在、がん原性指針に基づき、作業記録等の30年保存を行政指導として勧奨しているが、その趣旨からがん原性指針の対象物質にはGHS分類で発がん性区分1以外の物質も含まれる。がん原性指針の対象40物質中、区分1は35物質、その他は5物質。
*令和3年7月の「職場における化学物質等の管理の在り方に関する検討会報告書」を踏まえ、国によるGHS分類で物理化学的危険性または健康有害性が確認されたすべての物質について、令和3年度には発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで区分1相当の有害性を有する物質(234物質)が追加されました(施行は令和6年4月1日)。今後順次、対象物質が増える予定です。

特別有機溶剤等とはどのようなものですか?

有機溶剤のうち発がん性を踏まえて、物質ごとに業務や含有量の違いにより特定化学物質の規制を受ける「特別有機溶剤」があります。

新規化学物質製造・輸入件数はどのように推移していますか?

新規化学物質の届け出の件数は毎年1000件前後で推移しており、令和年は、748件であった。

新規の化学物質の発がん性はどのようにして調べるのですか?

引用元:

化学物質の有害性を的確に把握し、疾病の適切な予防措置をとるため、労働安全衛生法において、化学物質の有害性調査の制度が定められています。

新規化学物質の有害性の調査

新規化学物質の有害性調査制度は、以下の通り、新規化学物質が職場に導入される前に、事業者に、その有害性を調査させ、必要な健康障害防止措置を講じさせることによって、労働者の健康障害を未然に防止するものです。
①新規化学物質を製造又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ化学物質の有害性の調査を行い、その結果を厚生労働大臣に届け出ること(当該新規化学物質を試験研究のため製造・輸入する場合、また一定量(100kg)以下で製造・輸入することについて厚生労働大臣の確認を受けた場合などを除く)なお、化学物質の有害性の調査は、微生物を用いる変異原性試験(細胞の遺伝子に突然変異を引き起こすかどうか調べる試験)または、がん原性試験とされています。
②有害性の調査を実施した事業者は、その結果に基づいて自主的に労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じること。
③厚生労働大臣は、有害性の調査の結果について学識経験者の意見を聞き、必要があると認めるときは、設備の密閉化や保護具の備え付けなどの措置を講じることを勧告することができること。

既存化学物質の有害性の調査

既存化学物質の有害性調査制度は以下の通り、有害性の知見等が得られた化学物質を対象に、国が変異原性試験、がん原性試験を実施し、その結果に基づき、暴露実態の把握、リスク評価を行ったうえで、特別規則の制定や指針等を定め、労働者の健康障害を防止するものです。国は、一般の試験施設で実施することが困難ながん原性試験等を実施するため、労働者健康安全機構日本バイオアッセイ研究センターを設置し、長期又は短期の吸入試験等の有害性調査を実施しています。

GLP制度とは何ですか?

GLP(Good Laboratory Practice:優良試験所基準)制度とは、OECD-GLP原則(1981年制定、1997年改訂)に基づき、安全性試験を実施する試験施設ごとに、運営管理、試験設備、試験計画、内部監査体制、信頼性保証体制等に関するGLP基準への適合性を確認し、試験成績の信頼性を確保するものです。

新規化学物質を製造し、また輸入しようとする事業者が実施する必要のある変異原性試験又はがん原性試験については、試験の信頼性を確保するため、安衛法および関係規則等により一定の基準に従って行われるべきことが定められています。新規化学物質の有害性調査の結果を届け出る際には、試験結果報告書のほか、安衛法GLPに適合した試験施設等において行われたことを証明する書面を添付することが必要です。

化審法GLP基準への適合性の確認の手続きについては、「新規化学物質の審査等に際して判定の資料とする試験成績の取扱いについて」(厚生労働省・経済産業省・環境省 局長通知)に定められています。適合性の確認を受けようとする試験施設は、主務局長(分解度試験、濃縮度等試験については経済産業省製造産業局長)宛てに適合確認申請を行い、書類審査及び試験施設の査察により、適合性の確認を受ける必要があります。また、試験施設が継続して適合性確認を受ける場合は、確認更新が3年ごとに必要です。

参考:経済産業省https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/information/glp.html

発がん性を評価している国際機関はどこですか?

国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)は、世界保健機関(WHO)のがん専門の機関で、発がん状況の監視、発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的として活動しています。

IARCの発がん性分類について説明してください。

IARCは、主に、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因(作用因子)を評価し、4段階に分類しています。IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「証拠の強さ」を示すものです。物質の発がん性の強さや暴露量に基づくリスクの大きさを示すものではありません。
同じ分類に割り当てられた物質であっても、暴露の種類と程度など、他の要因によってリスクが大きく異なる場合があります。IARCは、分類されていない物質については、非発がん性もしくは総合的な安全性の判断を推し量ることができない、としています。
また、重要な科学的証拠が追加された場合、分類が再評価されることがあります。

グループ1 ヒトに対して発がん性がある。 128種類
グループ2A ヒトに対しておそらく発がん性がある。 95種類
グループ2B ヒトに対して発がん性がある可能性がある。 323種類
グループ3 ヒトに対する発がん性について分類できない。 500種類


職業暴露しうる発がん性物質にはどのようなものがありますか?

令和4年度の職業がんの労災補償状況を見ると、認定されたのは、1028人で、石綿に関連するがんが最も多かった。そのほかのがんとしては、ベンジジン、ベーターナフチルアミン、33ジクロロ44ジアミノジフェニルメタンによる尿路系腫瘍、電離放射線による白血病、コークスによる肺がんなどが認定された。


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