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あなたがいるから世界は変わる

私は、公共の構造物をつくる土木の仕事をしている。
土木と言うと、多くの人はすごい、と驚いてくれる。でも、私が他の仕事を本質的に理解できていないのと同じで、土木構造物は社会にあふれているが、認知度は非常に低い職業ではないかと思うことがある。

私が自分の仕事に俄然やる気が出るのは、私たちが造るものを実際に使ってくれる方々と繋がったときだ。
プレッシャーもかかるけど、その人たちの姿を想うと、土木構造物でもっといい社会にしていこうと頑張れる。

モチベーションが落ちるのは、構造物の計算のミスが連発したり、仕事がマンネリ化しだしたときで、そんなときは、どんな構造物にして、どんな風に人に使ってもらおうかが見えていなかったりする。
後から考えると、会社の外との繋がりがなくなっていた時期だったことに気づく。

コピーライターの澤田智洋さんの『マイノリティデザイン』は、あらゆる職業の人に向けて、『働き方は変えられる』『自分の経験や才能は、今の何倍も生かせる場所がある』『永遠に成長期だ』ということを伝えるために、全ての『あなた』へ書かれた本だ。

本書は、広告業界に入社した澤田さんが、仕事へのやりがいを見出だし、軌道に乗っていた中、自身の子どもが先天的な視覚障がいを持って生まれてきたことを発端にして、コピーライティングという自身の強みと社会では一般的に弱味とされているものを掛け合わせて、仕事と、社会の改革に挑戦した記録である。

当初は、息子の障がいに対して、悲しさや憤り怒りの感情あった澤田さんが、障がいがあっても生きてゆける未来を創ろうと、様々な障がいや課題を抱える人たちに実際に会いにいく。
その中で出会った人たちが、逆に障がいを抱えて生きてるからこそ、多様に眩しく広がる世界の美しさを持っていることに心を踊らせた澤田さんは、不特定多数の姿の見えないターゲット層に向けた仕事から、実在するひとりの人が抱える課題や澤田さん自身の弱さや苦手なものを解決するための働き方に転換し、他の業界の人たちを巻き込みながら自身の強みを活かし始める。

そうして生まれたのが、ユーモアや笑い、そして未来への可能性や伸びしろもあふれる『マイノリティデザイン』だ。
それは、他者への愛や、生きることの喜び、楽しさがめいっぱい詰まっている。

私の仕事、土木も、地域社会が抱える問題を解決することのできる無限の可能性を秘めている。
私がほんの小さな一歩であっても、土木の魅力を発信したり、近隣に住む人や、私がより社会をよくするためのデザインを様々な業界の人と協力しながら土木におとしこんでゆけば、変革する気がする。

澤田さんの後輩が、澤田さんに伝えた言葉がすごくいい。
『僕は澤田さんから『世界は一度には変えられない。だから一度ずつ変えていく』ということを学んだ』。

一歩ずつ(SLOW)、身近なところから(SMALL)、ずっと繋がってゆく(SUSTAINABLE)アイデアには、果てしない夢がある。

私も、日々成長し、変化していく中、弱点も変わってゆくだろう。
でも、私の『できない』や『苦手』はマイナスではない。それは私自身の個性であり、私を未知の世界へと繋げてくれる手段にもなりうるのだと思う。

(完)


本記事は以下の感想文です。

澤田智洋さんらがデザインしたものの一例は、以下のとおりです。
・NIN_NIN(寝たきりの人が障がい者の目に、視覚障がいのある人が寝たきりの人の足になるボディシェアリングロボット)

・ゆるスポーツ(世界中の人が楽しめるスポーツ)

・041(ひとりの障がいのある人のために服を作るプロジェクト)

・爺POP(高齢化社会を逆手にとった地域PR)


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