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学者の暴走を止める方法

イーロン・マスクにX(旧twitter)が買収されて以来、様々な人の投稿を見るようになった。
立派な経歴を持った著名な学者の投稿もあって、結構、勉強になる。
ただ見ていて不思議に感じるのが、多くの学者が右か左かに思考に傾倒しており、それぞれが持つ長所と短所を科学的に論証した上で、提示できる人がほとんどいないことだ。
そして、最近よく目につく投稿と言えば、例えば左の意見の学者が、同じく左側の学者と、言った言わない、理論が間違っていると叩き合っていたりする。

私は、その学者らの専門について全く精通しておらず、正解は分からない。
だが、学者らが導きだした結論や流す情報から、モノを消費する側ではある。
悲しいかな、彼らの争点は消費者側を考えたモノではなく、自分たちの名誉や名声、学者らしからぬ宗教にも近い価値観や信条をかけたモノが多く、客観的に見ていて、『大事なのって、そこぉ!?』と驚いてしまう。
まるで、『風の谷のナウシカ』に登場する王蟲おうむの、方向を間違えた暴走のようで、誰にも止められそうにない。

しかし、学者らの醜い争いは、往々にして起こりうることで、私にもよく分かる。
分野は違うものの、同じ理系の技術者であるからだが、私も仕事で関係者やユーザーに対し、してはならないことを今までやり続けているのではないかと、彼らの姿が反面教師となり、反省し、落ち込んでしまった。

それと時期を同じくして、土木の論文を書くための講習の受講を開始した。
社外の人に、きちんと理論立てて、全員に納得してもらえるような説明ができるようなることが目的だ。
案の定、これがいばらの道で、課題を提出しては真っ赤っかに訂正され、根拠がないと徹底的にダメ出しを受ける。
ココロがボッキボキに折れてしまうが、まだまだ自分はこの程度のレベルなんだと納得した。

そんなこんなで、ここ数ヶ月、大スランプに陥っている。
そもそも、私には、うまくいっていた時期なんてなんてなく、スランプとすら呼べないのかもしれない。大迷走期に突入した、というのが正しいのだろう。
決して逃げることは許されない、技術者として、非常に大事な時期に突入したのだと思う。

筑波大学の掛谷英紀准教授の著書『学者の暴走』では、科学者の役割を次のように定義している。
『どの道を選ぶにしてもメリットとデメリットがあり、どの道を選ぶかは個人の価値観の問題である。ただ、行った先に何があるかは、価値観の如何を問わず、誰もが正確に知りたいと思う。その情報を提供するのが科学の役割』であるという。
ところが、現在、多くの科学者たちは、『これを踏み外し、ある一方の道に皆を誘導したいがために、一方の道に天国があり、もう一方の道の先に地獄があるというウソの地図』を描いているそうだ。
なお、本書ではウソの動機を、イデオロギー、金銭(利権)、同調圧力に大別している。
とすると、専門的な知識がなくとも学者のウソを見破るには、それらを見つけ出せばよいことになる。
そして、誰が悪い方向に進化しすぎた技術や、学者らの暴走を止められるのかというと、私は消費者等の、それを受け止る側にしかできないのではないかと考える。

現在の社会システムをファンタジーという手法を使って正確に描いているひとつが、トールキンの『指輪物語』を原作とする映画『ロード・オブ・ザ・リング』だ。
この映画が好きすぎて、最近、未公開シーンが収められた、スペシャル・エクステンデット・エディションを入手した。
そのプロダクションノートによると、人々の恐怖や怒り、欲をエネルギーに、人々を監視し、力を増してゆく闇の冥王サウロンを、原子炉の暗喩としてトールキンは描いていたという。
登場人物たちは、時にその魔力に惹かれ、失望や苦悩に直面し、身体を病みながらも、遠い昔の先祖らが生み出したその原子炉を破壊する道を、ただ言われたからではなく、分からないなりに、理解し、経験を積みながら選ぶことになる。

登場人物の中でも特に印象的なのが、自身の弱さと向き合い、迷いながら歩を進める、人間の王アラゴルンである。
世界が破滅する道しか見えない状況でも、彼は『常に希望はある』と言う。おそらく、希望という光を消さず、そこに焦点を合わせることが、誰もが持っているココロの闇に身を沈めて、暴走してしまわないための手段ではないかと思う。

私は、農業に特化した土木に転向してから、一度も暴走していない。正確に言うと、暴走できていない、が正しいのかも知れない。
それは、私たちが造るものを使い続ける農家の人々が、長年の知識や経験を蓄え、時にはダメ出しを、時にはもっといい道を選ぶための意見を出してくれるからである。

その姿を見ていると、どんなものであれ自分が消費するものや使うものは、学者から提示されるものを鵜呑みにせず、自身で判断して選択していかないといけないのだな、と思う。
消費者自身がしっかり調べ、知識を蓄え、ひとつひとつ丁寧に観察しながら正解を導き出していかなければいけないほど、様々な技術や情報、その他特定できないほど多くの何かが暴走しているのを最近はひしひしと感じる。

そして私が提供する技術が、このずっと先の未来、人を不幸にし、破壊せざるを得ない状況を生みたくない。
この先に何が待ってるのか技術者としての視点から的確に判断し、伝え、よりよい道を使う人たちに提示し、選択してもらえるようなものでありたい。
そのために、この迷走期を乗り越えるための努力を継続していきたいと思う。
そして、決して慌てて中途半端なものを積み上げてしまうことなく、きちんと向き合い、自分を磨きながら、いい未来を手渡せる人に成長したい。

(完)


本記事を書くにあたって、下記の文献等を参考にしました。

ちなみに、トールキンの『指輪物語』はイーロン・マスク氏の愛読書だそうです。


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