「彼岸花が咲く島」読後感想
「彼岸花が咲く島」文藝春秋
作者 : 李 琴峰
近い未来の何処かで起こるかもしれない、あるいは近い過去の何処かで起きていたかもしれない世界のお話。
ノロと呼ばれる島の歴史や儀式、女語等を管理し、責任を負う女性によって、島は運営されている。
今の日本とは、家族に対しての考え方も、女性の位置づけも違う世界。
その島に流れ着き、游娜(ヨナ)に助けられた宇実(ウミ:と名付けられた少女)からの視点でその世界が描かれる。
日本の現実世界では、男性が政治の中枢を多く担い、決定権を持つことが多い。
実際の世界は戦争や争い、暴力的なことが絶えない世界とも言える。
対して、女性が指導的な立場を占めたならば、と言う世界が描かれる。
それは上手く回っているようでもあり、男性を最後の最後に信用していない世界でもある(男性と島の歴史を共有しない点からそう考えられる)。
女性だけがノロになれる、という掟(男性はなれない)。それはノロと言う立場になって初めて、歴史を知ること(継承)で、納得のいく掟でもある。
宇実や游娜がノロとなり、これから担っていく責任、変化や改革がされる未来を示唆してお話は終わる。
女性が主要な役割を果たすことで、戦争や争いが絶えない世界を無くせるのかも知れないと思うけれど、それは男性を信じないという点を考えれば、真の共生ではないとも思う。
また、生むことと育てることを別にして生きる生活様式は、ある意味、理にかなっているようにも見える。現実世界では、子どもを育てることを諦め、放棄してしまう人もいるから。
すべてが読む人への問いかけなのではないか。
世界で争いを無くす方法。家族制度の在り方。
今の現状が続けば、この島のような世界ができる可能性はゼロではない。