好きな人ができたらさ
“臨時休業”
その文字を見て思わず笑ってしまった。最後に思い出のおそば屋さんに行こうって言ってたのに。「なんか私たちらしいよね」って。
いつからか、彼の歯ブラシで靴を洗った頃からだろうか。いやその少し前、もう少し前からか、私たちの間にはどうやら溝が生まれていたらしい。
...
「私さ、なんか花の名前教えたっけ?忘れられないようなやつ」
「いや、パッと思いつかないから無いんじゃないかな」
またまた『花束みたいな恋をした』に感化された私は、彼に問うてみたのだ。あわよくばひとつでもあれ!そして一生彼を縛る呪いとなるのだ!と鼻息荒く期待していたが残念。そもそも花の名前を教えるなんてシチュエーションある?メルヘン過ぎないか?というか花の名前を教えても、“興味ないことは右から左へ〜”の彼の脳には届かないのだろうなぁ、、とか思いながら「そっか。お花なんて一緒に見ないもんねえ」と返した。
「でも、もし別れたらおさるのジョージとか見てしんどくなるのかな。二郎系ラーメンとかも」
「タピオカ?」
「神宮球場とかもかな」
花の名前こそ教えてもらっていないけれど、私にとって初めてのことって、どうしても相手を思い出す引き金になっちゃうんじゃないか。目玉焼きのキレイな焼き方とか、ビールの美味しさ、UFOキャッチャーの極意、他にもたくさん。ほんとうにたくさん。
...
「そういえばSNSの写真は残しておこうかなって。思い出だし。」
「うん。まぁいいんじゃないかな。だけどそのうち消しなよ。
好きな人ができた時とかさ。」
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?