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[書評] エスノメソドロジー ―人びとの実践から学ぶ― 2025年01月31日

『エスノメソドロジー ―人びとの実践から学ぶ―』という本を手にしたとき、私はただの学術書ではない何かを感じました。この本は、私たちの日常生活に潜む「秩序」をどのように理解し、記述するかについて新たな視点を提供してくれます。特に、エスノメソドロジー(EM)のアプローチが、いかに私たちの普段の行動や会話、社会的な活動を解明する手助けになるのかに興味をそそられました。この本を通じて、社会学の枠を超えた実践的な洞察が得られることを実感しました。

1. 著者紹介

著者である前田 泰樹氏は、エスノメソドロジーの研究者であり、社会学における人々の実践的な行動に関心を持ち、長年にわたってこの分野に取り組んできました。彼の研究は、日常的な社会的秩序がどのように形成されるのか、またそれをどう記述し理解するのかというテーマに根ざしています。エスノメソドロジーの理解を深めるために、彼は実際の社会的実践から学び、それを理論的に解釈する手法を多くの読者に提供しています。本書でも、その深い知識と実践への洞察が光り、読む者を引き込んでいます。

2. 本の紹介

『エスノメソドロジー ―人びとの実践から学ぶ―』は、エスノメソドロジーという学問分野の基本的な考え方を紹介し、それを日常的な実践にどのように適用していくかを示しています。エスノメソドロジーは、私たちが普段行っている行動やコミュニケーションの中で、いかに社会的秩序が作られ維持されているかに焦点を当てます。この本では、そうした日常的な社会的活動がどのようにして「方法論」に基づいて秩序づけられるのか、そしてその秩序を理解するためのアプローチを提供しています。特に、日常の言語使用や行動に潜む社会的な構造を解明する点に特徴があります。

3. 感想と主張

本書を読んで感じた最も大きな感想は、エスノメソドロジーがいかに日常生活に根ざした学問であるかということです。私はUXデザイナーとして、日々人々の行動やニーズを理解し、それに基づいてインターフェースを設計しています。そのため、どのようにしてユーザーが自分の環境やツールを使いこなしているのか、またその背後にある「方法論」を理解することが非常に重要です。この本は、まさにそのような日常的な行動の背後にある社会的秩序や「常識」を理解するための手がかりを与えてくれました。

エスノメソドロジーのアプローチは、社会学の理論を単に学問的な枠組みとして学ぶのではなく、私たちが日常的に行っていること、たとえば会話や仕事、判断の過程にまで目を向け、それをどのように秩序づけているのかを探ることにあります。これはUXデザインのプロセスにも共通する点があり、ユーザーがどのようにインターフェースを使い、どんな方法でそれを操作しているのかを理解するためのヒントが詰まっています。

4. 要約

本書『エスノメソドロジー ―人びとの実践から学ぶ―』は、エスノメソドロジーの基本的な概念を、日常的な実践を通じて理解するための手引きです。エスノメソドロジーは、社会的秩序がどのように日常の実践を通じて作り上げられているかを研究します。著者は、実践の中で使われる「人びとの方法論」をどのように記述するのかという視点を提供し、社会的な行動を理解するための新しいアプローチを提示しています。この本を通じて、社会的秩序がどのように形成され、維持されているのかを、身近な実践を通して学ぶことができます。

5. 問題提起

本書を読んで感じた問題提起は、エスノメソドロジーがどこまで「常識的知識」に頼るべきかという点です。社会学的なアプローチでは、しばしば「常識」を無視して抽象的な理論に走りがちですが、エスノメソドロジーは逆に日常的な「常識」に注目します。このアプローチは非常に実践的で有益ですが、現代社会におけるテクノロジーの進化や、デジタル化された環境における「常識」の捉え方には限界があるのではないかと感じました。例えば、SNSやオンラインのコミュニケーションでどのように社会的秩序が作られているのかは、今後の研究課題と言えるでしょう。

6. 重要なポイント

本書の最も重要なポイントは、エスノメソドロジーが「日常的な実践」にどのように焦点を当て、社会的秩序を理解し記述する手法を提供する点です。社会学という学問がしばしば抽象的で難解な理論に偏りがちな中で、エスノメソドロジーは私たちの身近な行動、会話、判断に基づいて社会秩序を分析し、記述する方法を示します。このアプローチは、UXデザインの現場にも応用可能であり、ユーザーの行動や反応を理解するための新たな視点を提供してくれます。

7. エスノメソドロジーとエスノグラフィーの違い

エスノメソドロジーとエスノグラフィーは、いずれも社会学の一分野であり、人々の実践を研究する点では共通していますが、アプローチにおいて大きな違いがあります。エスノメソドロジーは、人々の実践における「方法論」を探る学問であり、どのようにして社会的秩序が作られ、維持されているのかに焦点を当てます。エスノグラフィーは、文化や社会の一部を詳細に観察し記述することを目的とした方法論であり、特に人々の生活や行動を観察し、フィールドワークを通じてその背景や意味を解明しようとします。

簡単に言えば、エスノメソドロジーは「方法論」を重視し、エスノグラフィーは「観察」に重きを置いているという点が、両者の大きな違いです。UXデザインにおいては、エスノメソドロジーがユーザーの行動や思考の方法を理解するために非常に有用である一方、エスノグラフィーはユーザーリサーチやフィールドワークを通じて、実際の行動や反応を観察するための手法として役立ちます。

8. まとめ

『エスノメソドロジー ―人びとの実践から学ぶ―』は、社会学の理論と実践を結びつけ、日常生活に潜む社会的秩序を理解するための有力な手法を提供する一冊です。エスノメソドロジーのアプローチは、UXデザインに携わる私たちにとっても非常に示唆に富んだ内容であり、ユーザーの行動やニーズを深く理解するための新たな視点を提供してくれます。社会学の学びを実践に活かしたいと考える方々にとって、この本は非常に有益なガイドとなるでしょう。

参考


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松崎 希  │  隣り合わせの灰と青春
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