自動筆記/2023.10.28(5分間)

どこまで行っても白い海だった。夕方過ぎに苦しんでいた魚たちの群れが星の輝きを伴ってこの世界に降りてきた。レンガ造りの家で小さなピザを焼いていたその人は、この世界の終わりみたいな顔をして僕に静かに手招きをした。夫婦たちが踊り狂っている。

クリアファイルには何も書かれていなかった。地図の中にその島は浮かんでいなくて、宝物はどこにもないみたいだった。切手を貼って出した手紙が届くころ、世間は大きなニュースでもちきりになっていて、なくした指輪を空高く投げたところでその漫画は終わってしまった。万年筆の先に魂は宿らない。心は動き出すことなく、心臓さえも止めてしまった。キーボードの8が静かに誘惑している。ただ静かな森に行きたいと思った。大きなヨットに飾り付けられていた意味のない帆が風に揺られてまたたいていた。窓の奥ではけらけらとした笑い声が響き渡り、マグカップは音を立てずに静かに割れた。苦い薬だけがテーブルの上に落ちていた。幽霊たちは楽しそうに泣きながら髪の毛を切り刻んでいるようだった。カウンターに座ってみたい。路上で寝転んでは体中に砂をこすりつけて、それで世界とひとつになれたような気がしていた。そんな勘違いを繰り返したままぼくはおとなになって、おとなになった途端ほんとうに大切なことがなにも見えなくなってしまった。バッテリーは赤く染まっている。明滅する泣き言が明日から電車に乗って空から降ってくるそうだ。うわさを聞き付けたうさぎたちはあとかたもなく食べられた。耳の奥にはなにも残っていない。信号機の向かいには誰も待っていなかった。横断歩道だけがこの世界の白と黒を知っていた。

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