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十勝に誕生、「エレゾ・エスプリ」の美食を味わう。

2023年がスタート、今年もどうぞ「北海道生活」をよろしくお願いします。

ただいま発売中の冬号では、2022年10月に十勝の豊頃町(とよころちょう)で誕生したオーベルジュ「ELEZO ESPRIT(エレゾ・エスプリ)」をご紹介しています。

<「北海道生活」をご覧になっていない方のために……> 十勝出身の料理人・佐々木章太さんが信頼する仲間たちと食肉のプロ集団「ELEZO(エレゾ)」を立ち上げ、彼らの手がけるジビエ(狩猟肉)は道内外のレストランで高く評価されるように。その後、札幌、そして東京で自社レストランをオープン、渋谷区松濤のレストランは予約が取れないほど話題となりましたが、そこをあっさり引き上げ、ラボ(食肉処理加工場)のある豊頃町でオーベルジュ(宿泊付きレストラン)を開くという悲願をかなえたのでした。

オーナーシェフである佐々木さんの夢がかない誕生した、この美食のオーベルジュについては誌面でたっぷりご紹介しているのですが、取材の後で、実際に泊まりに行ってみました。

ELEZO ESPRIT(エレゾ・エスプリ)

季節は晩秋、左の白亜の建物がレストラン、右の3棟が宿泊棟となっています。

部屋番号は、33、55、77 となっているのは、実はオーナーシェフの佐々木さんが学生時代にアイスホッケーの選手だったことにちなんでいるそうです。

部屋の内部は、上質感を大切にしながらもシンプルに。(誌面では使われなかったオフショット写真も一部使っています)

大人2名用のゆったりした空間で、ベッドの裏側にはデスクがあったり、必要なものが置いてあったりと、細かいところまで行き届いています。(個人的には歯ブラシとスリッパが気に入りました)バスルームもトイレも生活感を排除し、できるだけシンプルな美を感じさせます。

この部屋には時計もテレビもありません。聴こえるのは波の音だけ。ここでゆっくりしてから、レストランへ向かうのです。

食事がスタートするまでは「ELEZO」の世界にふれ、期待を高めるアプローチがあるのですが、それもすでに誌面でご紹介しておりますので、ここからは実際に味わってみたディナーについて。(佐々木さんのお言葉はメニューブックからも一部引用しています)

ディナーはすべて、自社ワインによるペアリング(ノンアルコールも選べます)で提供されます。ブドウから「ELEZO」の料理のために設計されたという、究極のペアリングで料理を味わうことができるのです。

18:30に、ディナーがスタート。(便宜上1皿目、2皿目と記述していますが皿数ではありません。)

1皿目 命のスープ × スパークリング

ディナーのメニューは季節や食材の時期などにより入れ替えるそうですが、この「命のスープ」で始まるのは共通。

「ELEZO」の肉が評判なのはもちろんのこと、食肉加工しているこの場所だからこそ、筋・骨までも使い、あとは香味野菜と水だけで仕上げたスープを提供しています。

肉を扱う以上、「命をいただく」というのは当たり前で、「一滴の血や一片の肉まで最高ラインに引き上げることが料理人である前に、人間のあるべき姿勢だと考えています」と佐々木さん。

まさに、「いただきます。」という言葉にふさわしい、ディナーの幕開きです。

2皿目 シャルキュトリ盛り合わせ × シャルドネ

「ELEZO」といえば、私たちがオンラインショップでも買うことのできるのがシャルキュトリ(食肉加工品)。

そのラインナップが少しずつワインと味わうことができるという幸せなセットです。生ハム、サラミ、パテアンクルート、ブーダン、ンドゥイヤ、それぞれの味わいに季節の山菜ピクルスが爽やかに添えられます。シャルドネとの相性も抜群。

特にブーダンは、チョコレートと思うほどの口あたりに驚かされ、「血の一滴までも使う」という姿勢が現れた逸品。

私たちが美味しい、美味しい、と喜んでいる裏側で、食肉加工の際に「使いづらい」とか「価値が低い」とされる部分を活かす丁寧な処理と磨き上げる技術、隅々まで行き渡った食材への想いがあるのです。

3皿目 地場の魚介料理 × ヴィオニエ

これまで札幌や東京の「ELEZO」のお店でも、出てくることがなかった魚介料理。

それは、この大津という地が海の前にあるからこそできる料理です。

佐々木さんたちが食肉処理加工の場所を豊頃町に選び、移り住んだ当初、漁師町である地元では「何をやってるんだろう?」と不思議がる声が多かったようです。その後、スタッフたちとともに、子どもを育て、地元に根を生やしていったことで、今では豊頃町のふるさと納税でも「ELEZO」の食品が登場するように。

猟師さんとともに始めた「ELEZO」が、この地で漁師さんともつながったことで、海の幸(つまり海が育てた命)を味わえるようになりました。知床で学んだことの受け売りですが、海と山は命の連鎖によってつながっているのですね。

この日は地元の特産である鮭と、地元産のニンジンにコンソメジュレを合わせた一皿に、ヴィオニエの華やかでしっかりした白ワインがぴたっとはまります。

4皿目 サルシッチャ × ピノ・ノワール

「豚の肩や首、特段旨みの深い部位」を使用しているというサルシッチャ。そこに地元の野菜、そして十勝が誇る豆が合わさります。スープ仕立てになっているので、まとめてすくって口に入れると、噛むごとにぎゅっぎゅっと肉の旨みが口の中で広がります。ここにピノ・ノワールの穏やかな赤ワインを流し込むと、ふんわりと香りが鼻から抜け、なんとも心地いい余韻がつづきます。

「ELEZO」はジビエのイメージが強いのですが、この豊頃町では放牧豚や鶏、つまり家禽がストレスのない環境で育てられており、ジビエも家禽もまとめて「美味しい肉」を追求しているのです。

5皿目 エゾシカ × シラー&ヴィオニエ

シャルキュトリと並び、「ELEZO」といえば道内外にあるレストランのシェフたちも絶賛するジビエの代表格、エゾシカがいよいよ登場。

「北海道生活」誌面ではカメラマンによる美しい写真でご紹介していますが、付け合わせもそのときとは違い、秋ならではの地元のきのこが付け合わせになっています。

エゾシカといっても、一言では語り尽くせません。年齢、オスかメス、メスなら出産の有無、彼らが生息する場所、食べているもの、そのいろんな要素で肉質は異なります。(エゾシカに限らずですが)

「ELEZO」ではそのとき仕留められた瞬間から、その肉が新鮮なまま処理をし、それぞれの個体の肉質に添った仕込みが行なわれているので、「若い肉だから美味しい」とか「メスだからやわらかい」といった誤解がなく、もちろん「エゾシカくさくない」という言葉が必要ないくらい、ていねいで「きれいな肉づくり」を心がけています。

北海道に外から人がたくさん入ってきて、森を切り拓き、天敵のオオカミが絶滅してから、エゾシカは異常なほど増えすぎてしまいました。調整のためエゾシカ猟が定期的に行なわれているものの、北海道の人(特に年配の方)はエゾシカ肉に対して拒否感のある場合も少なくありません。ジビエとして人気が出てきたのは、むしろ東京など道外のレストランからの評判がきっかけのようです。

ここで「ELEZO」のエゾシカ肉を味わってみると、全くクセがないことに驚かされます。牛肉でも豚肉でもない、そしてジビエ特有と思われていた鉄分を感じる骨太な赤身肉の味わいとも違うのです。

しっとりしてやわらかく、とっても優しい味わい。これまでのシカ肉のイメージをくつがえされ、「がっつり肉、野生のジビエを食べたい」という方には、かえって意外に思われるかもしれません。ここに、シラーとヴィオニエを合わせた優雅なワインを合わせると、今まで食べたことのないエゾシカの料理の世界を実感することができます。

エゾシカは苦手、という人こそ、ここで食べてほしいと思いました。

6皿目 季節のコンポート

佐々木さんの料理は、最後は必ず季節の果物のコンポートで締めくくるそうです。

個人的にこれはうれしい。フルコースをいただくと、メインで自分の気分は最高潮に達してしまい、その後でケーキや生クリームといったデザートが来るのはきつい。自分で食事する場合はコースでなくアラカルトを選んでしまうのも、食後のデザートが重たく感じて苦手だったからです。

この日は熟した柿に年代物のアマレットを合わせて。大人のフルコースにふさわしい締めくくりでした。

一連のコースについて、さらにお伝えしたいのは、お肉が中心のコースでありながら、ポーションは控えめ(さらに控えめもリクエスト可能)なので、胃に負担がなく最後までリラックスして味わうことができるのです。

年輩の方でも、安心して味わっていただけるディナーだなと確信しました。

食事の間も、食事の後も、取材時とはまた違った佐々木シェフのお話をじっくり聞くことができ、帰りにスタッフの皆さんやご家族ともご挨拶ができたのも貴重なひとときでした。


レストランを出る前に、ここで飼われている鴨の羽根をいただき、リースに飾られていただきました。

一枚の羽根まで大切に。まさに、「ご馳走様でした。」で締めくくることができました。

満足度と幸福度でいっぱいになった体、すぐ横には宿があり、ベッドへ直行。「もう一杯」など考える余裕もなく、就寝してしまったのは言うまでもありません。

おやすみなさい……


翌朝……寒い中バルコニーに出てみると、なんと気嵐(けあらし)です!

海の温度の方が高いので、水蒸気となって海の上に霧が発生する珍しい現象。前の夜も満月だったので、なんとも幸運でした。

人体の不思議は、朝ちゃんと空腹になっていること。お酒もいただいたのに目覚めもすっきり、朝食を楽しみにレストランへ。

朝食の始まりは、まさに海の命のスープ。これは魚介のエキスを詰めたコクのあるスープドポワソンです。

おなかをあたためた後で、なんと朝食も「ELEZO」のシャルキュトリ!

ふわふわとした薄切りのハムに、エゾシカのテリーヌ。付け合わせには山菜、豆と十勝の食材を。

ワインではなくノンアルのシードルを合わせていただく、大人のための朝食です。中には「ワインを飲みたい!」とわざわざボトルを注文してしまう酒豪の方もいたそうです。

朝からシャルキュトリも堪能できるという、「エレゾ・エスプリ」は一泊限定、連泊はできないという一夜限りの夢の時間。そして、命や食について考え直すことのできる、人としての再出発の時間ともいえると思います。

通常は料理の撮影やWEB・SNSのアップなどはできないのですが、「北海道生活」冬号の取材をきっかけに、佐々木シェフには特別にブログのためスマホで撮影させていただき、ありがとうございました。

最後に……取材時、佐々木シェフの調理のようすのほかに、マスクを取って笑ってくださいと無理にお願いしたポーズの写真もすてきだったので、ここでアップさせてください。

こんな穏やかな優しい笑顔の佐々木シェフですが、本誌で原稿を書いているうち、命と向き合うシェフの姿勢や覚悟といったものを感じると、笑顔ではない写真のほうを誌面に採用してしまいました。苦手とおっしゃっていたのに、無理に笑わせて、撮影して申し訳なかったです。

実際に泊まって、夜と朝にお食事をさせていただいた際も、何気ないギャグやおもしろエピソードなど交えて、気さくに会話していただきながらのお食事が楽しめました。

もちろん料理は真剣勝負ですが、真面目に緊張していただく食事ではなく、楽しみ、味わい、感動し、そして学び、気づかされ、心も体も満足する食事がここにありました。

大人だからこそ気づかされる「いただきます」と「ごちそうさま」、そして「ありがとう」の気持ちが自然に湧きおこる、そんな素晴らしいオーベルジュでした。

ありがとうございました!

【宿名】ELEZO ESPRIT(エレゾ・エスプリ)
【公式サイト】http://esprit.elezo.com/
【住所】北海道中川郡豊頃町大津127
【交通】JR帯広駅または帯広空港よりそれぞれ車で約1時間(タクシー送迎可能)
※運転の際にはGoogleマップで「エレゾ エスプリ」と検索すると確実です

冬の早朝には、豊頃町名物のジュエリーアイスが見られることも。絶景はすぐそば! 目の前でジュエリーアイスが見られるようになるのも楽しみですね。

(編集長)

北海道生活 冬号「美しい冬、雪と氷の世界。」発売中


北海道生活WEBサイト
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