座右の銘を語る面々
定年退職するまでの四十余年間に実社会で自分自身の「座右の銘」をご大層に「四字熟語」を使って語る面々を数多く見てきた。
そいつらは、例外なく迷惑千万な輩ばかりだった。
その十余の実例を以下に列挙する。
〈其の一〉
「整理整頓」を口やかましく言う人の机とロッカーが一番乱雑だった。
〈其の二〉
「時間厳守」が自分のモットーだと言っていた人は、よく遅刻をしていた。
〈其の三〉
「品行方正」が自分のモットーだと言っていた人は、酒癖が悪く酒席でいつも顰蹙を買っていた。
〈其の四〉
「謹厳実直」を旨としていると言っていた人の勤務態度が一番酷かった。
〈其の五〉
「法令遵守」を周囲に誰よりも強要していた人は、就業規則を一番守っていなかった。
〈其の六〉
社長と俺は「一心同体」が口癖だった人は、早くから次期社長と目される人に陰で取り入っていた。
〈其の七〉
会社の人たちとは「一蓮托生」だと宣言していた人は、社の業績が少し悪くなると真っ先に転職した。
〈其のハ〉
「有言実行」が自分のモットーだと言っていた人は、口だけで後は何もしなかった。
〈其の九〉
常に「背水之陣」で臨むと言っていた人は、秘かに幾通りもの逃げ道を用意していた。
〈其の十〉
「初志貫徹」と「不撓不屈」の精神が何よりも肝心だと言っていた人は、自分の案と正反対の上層部の案を、いとも簡単に唯々諾々と受け入れていた。
これらの経験から「四字熟語」を使って、ご大層に「座右の銘」を語るやつらは、必ず言葉と真逆のことをやると私は強く確信している。
因みに、私の座右の銘は「自主自律」である。
<了>