はじめて所属した学会
はじめて所属して自分の研究成果を発表する学会を共同研究者の先輩が勝手に決めた。
その学会は、歴史のある本流ではなく新興で傍流だった。
私が希望していた学会ではなかった。
「なぜ、この学会ですか?」、
私は口角泡飛ばし、色をなして先輩を問い詰めた。
「え、アカンか?」。
先輩はさほど真剣に選択した様子ではなかった。気が抜けたが、気を取り直して傍流ではなく主流の学会を選ぶべきだと主張した。
私の話を聞き終わった先輩が言った。
「お前の動機は、純粋すぎる」。
何を言っているのか理解できなかった。
余計に腹が立って、さらに詰問した。
「純粋すぎてはダメですか? 先輩は何故この学会を選んだのですか?」。
先輩はせせら笑って「今年の開催地と会場を見てみ。楽しみやで」と言った。
そこは有名な観光地のすぐ傍だった。
私は呆れ返った。
先輩は、自分の研究成果を世に問う場である学会を観光目的の『物見遊山』気分で選んでいた。
信じられなかった。
先輩はさらに「動機が不純なほど物事は上手くいく」と言った。
絶対に嘘だと思った。
しかし…
その年、その学会は参加者がなぜか急増して盛況に催され、成功裏に終わった。
そして三年後、その学会は参加者数と演題数が他の学会よりも多くなり、完全に主流の学会となった。
私は五年目にシンポジストに選ばれた。
先輩が私に向かってドヤ顔で言った。
「ほら見てみ。上手いこといったやろ」。
悔しいけど、本当だった。
<了>