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保険をつくる ~「町内会保険」のつくりかた

二十四節気:小暑 七十二候:鷹乃学習(末候)

アメリカの保険会社の数は、日本とくらべるとかなり多い。その理由をさぐると、アメリカでは「保険をつくる」ことが、思ったより簡単にできることがわかる。では、実際に保険はどのようにつくられるのか。「町内会保険」の例を紹介する。


▶日本とアメリカの生命保険会社の数は?

旅に出るといろいろな刺激があります。私たちがふだん何気なくしていることも、外国に行くと当たり前ではないことに気づかされます。自分のことを振り返るとき、外国ではどうなのかを参考にするのもよいでしょう。今回は、日本とアメリカの生命保険事情を少し比べてみましょう。
 
今回の内容は、橋爪健人さんという方が書いた「日本人が保険で大損する仕組み」(日本経済新聞社)を参考にしています。

まず、ひとつ問題を考えてみてください。
 
【問題1】 日本にある生命保険会社はいくつですか?
 
保険業界の人以外は関心がない問題です(すみません)。だいたいどのくらいあるのかな、といったイメージでいいです。10社、20社、それとも100社? あなたはどのくらいだと思いますか?
 
正解は41社(2024年1月現在)。銀行と比べると、少ない気がします。メガバンク、地方銀行、第二地銀など、いろいろありますからね(銀行ではありませんが、信用金庫や信用組合も銀行の機能をもっています)。
 
では、次の問題です。
 
【問題2】 アメリカにある生命保険会社はいくつですか?
 
たぶん見当がつかないので、日本と比べて、考えてみてください。日本よりも多いか、少ないか。あなたはどのくらいだと思いますか?アメリカの人口は日本の3倍近くありますから、日本が41社なら、アメリカは120社程度と予想することができます。
 
残念。データが少し古いのですが、2017年末で781社とのことです。近年、アメリカの保険会社の数は減っているようですが、日本を比べると、だいぶ多い感じです。
 
日本とアメリカの保険会社の数がこれほど違うのは、なぜでしょうか?

▶アメリカの保険会社が多い理由

さきほど紹介した本に、その説明がありました。日本と比べて、アメリカは保険会社を簡単につくれるしくみが準備されているとのことです。
 
その本にはひとつの保険会社の例が紹介されています。その会社はニューヨークにあり、社員は3名。社長は中国系のアメリカ人で、チャイナタウンに住む中国系住民向けに保険を販売します。保険の引き受けと営業は自社でやりますが、それ以外の業務はすべてアウトソーシングしているとのこと。
 
多くの業務を外部に委託できるので、会社自体は小さくても運営できるという訳です。お客様も「チャイナタウンに住む中国系住民」というように限定されているので、顧客ニーズに合った保険が提供できそうですね。
 
このような小さな保険会社を運営できるのは、アウトソーシングできるサービスがたくさんあるからです。著者が「全米自家保険学会」(Self-Insurance)に出席したときには、そのようなサービスのブースがいたるところに出店されていたそうです。具体的には、「保険数理」「保険事務」「保険金査定」「支払い」「再保険」といったサービスです(サービスの細かい内容は知らなくても大丈夫です)。
 
保険会社は、自分たちに必要なサービスを買いか詰めて、そのサービスを組み合わせることによって、オリジナルは保険をつくれるという訳です。
 
日本にも、生命保険会社の外に、「少額短期保険会社」という制度があります。保険会社を始めるよりは、かなりハードルが低くなっています。しかし、アメリカほどではありません。
 
アメリカでは「自分にあった保険がなければ、自分でつくればいい」という意識があるとのことです。たしかに本当に自分にあった保険が欲しいなら、自分でつくるのがベストです。
 
でも、保険をつくるのって、そんなに簡単にできるのでしょうか?

▶「町内会保険」のつくりかた

著者の橋爪さんは、日本でも保険をつくることは可能とおっしゃいます。実際に、ある銀行は行員のために自分たちで保険を作ったとのことでした。では、実際にはどのようにつくればよいのか、橋爪さんの著書で紹介されている「町内会保険」の作り方を見ていきましょう。

町内会で保険をつくる

【町内会保険の作り方】
町内会の話し合いで、会員が亡くなったときの保険をつくることになりました。保険を作り上げるまでのステップは以下の6つです。
 
【ステップ1】仲間を集める
町内会の会員で「町内会保険」をつくります。会員は「町内に住んでいる人(家族、子供、同居人」「家屋や不動産を所有する人」です。現在の会員数は1,000人。保険に入るかどうかは、会員の自由とします。
 
【ステップ2】保険プランの設計
会員が死亡した場合、200万円を支払うことにします。保険期間は1年間。スタート段階は簡単なプランではじめて、少しずつ改善していくこととします。
 
【ステップ3】掛け金(保険料)を決める
掛け金を決めるにあたって、専門家がするような複雑な計算はしないことにします。会員へのアンケートをもとに、掛け金を決めます。アンケートの質問項目は、以下の2つです。
① 会員家族で過去3年間に死亡した人の数
②「町内会保険」が実施された場合、加入するかどうかの意思確認
 
アンケートの結果は以下のとおりでした。
① 過去3年間の死亡者数は9人(3人/年)
② 加入に前向きな会員数 大人400人 子供200人
 
アンケートの結果から、年額の掛け金は大人20,000円、こども10,000円とすることにしました。
 
 【ステップ4】保険収支の見通しを立てる
これまでの情報に基づいて、保険収支の見通しを立てます。
 
・対象者数 : 1,000人
・加入者予想: 大人400人 子供200人
・掛金収入予想(年間):大人400人×2万円+子供200人×1万円=1,000万円
・死亡者予想(年間):3人
・支払保険金予想(年間):3人×200万円=600万円
・収支予想(年間):掛金収入1,000万円-支払保険金600万円=400万円

 
経費を考えなければ、年間400万円のプラスなので、運営できそうです。2年目以降の掛金は、収支状況をみながら、柔軟に変えていくことにします。
 
【ステップ5】保険事務の役割分担を決める
保険を運営するにあたっては、「名簿の管理」「集金管理」「保険金の支払い方法」などの事務が必要となります。これらの事務の担当者はあらかじめ決めておきます。会計担当者が兼務することも可能です。
 
【ステップ6】保険規定を作成する
「町内会保険規定」として文書を残します。その規定には、「対象者」「プラン」「掛金」「役員の氏名と人気」「役員会の開催方法」などを記載します。
 
これで「町内会保険」のできあがりです。それほど難しくはない気がします。実際に保険をつくるとなること、ここまで単純ではありませんが、思っているほど複雑ではないこともおわかりいただけたと思います。保険は、会費を集めて運営される親睦会を大きくしたようなものと考えることもできます。

▶「町内会保険」に似たしくみ

このように手軽に保険をつくることができるなら、保険会社に不満がある場合、消費者が自分たちで保険を作ることもできます。それがアメリカの保険会社が多い理由の一つです。ふつうの保険会社も魅力的な商品を提供しないと、消費者が自分で保険をつくるので、うかうかしていられません。もちろん競争が激しくなりすぎて、保険会社がつぶれることはよくありませんが、健全な競争は大歓迎です。
 
日本の場合は、まだまだそういった意味での競争は激しくありません。それでも、今回紹介した「町内会保険」に似ているしくみもあります。たとえば、会社の中で社員や家族が入れる「グループ保険(団体保険)」は掛け金も安くなっています。「県民共済」などの「共済」も、組合員が加入するということで、やはり掛け金がお安めです。
 
 日本では、消費者が自分たちで保険をつくるという動きは、あまり聞きません。ひとりの消費者としては、「グループ保険」や「共済」もうまく活用するのも賢い選択だと思います。

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