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蛾よ、前言撤回だ
窓に蛾が当たっている。
バタバタバタバタ。教室の中の蛍光灯を目指しているのだろう。何度も何度もぶつかっている。バタバタバタバタ。そろそろガラスがあると気づいてもいいんじゃないか。もう5分くらいはずっと格闘している。
バタバタバタバタ、バタバタバタバタ。やばい、あまりの一生懸命さに笑いたくなってきた。だれかの(蛾の?)必死さを笑うなんて失礼なことだ。なのに、肩の震えを抑えられない。なんでこんなに頑張れるのだ、きみは。
前の席に座っている友人も気づいたようだ。チラチラと窓の様子をうかがっている。
わたしは友人の肩をたたき、「この子さっきからずっと一生懸命だよね。超がんばってるよね。きっとじっとしていられないアグレッシブなタイプだよね」と言ってクスクスと笑いながら、一緒にエールを送りたかった。
あいにく出席率のひどく悪い授業だったので(この日は6人しかいなかった)、そんな目立つような行動はできなかった。だからわたしは、1人でこの子の頑張りを見守ることに決めた。
バタバタバタバタ。枠を超えて隣の窓に移った。バタバタバタバタ。と思ったらまた戻ってきた。
バタバタバタバタ、バタタタタタ、ピタッ。
あ、止まった。ガラスにくっついた。ようやく、部屋の中にはたどり着けないとわかったみたいだ。それにしても、今の今まで通り抜けようとしていたものに掴まれるのはすごい。切り替えが早い。そして、これまでの激しさが嘘のように動かずにじっと止まっている。
見つめていても面白くなくなったので、わたしもようやく授業を聞くことにした。蛾のことばかり考えていたので、何の話をしているのかさっぱりわからなかった。
結局、あんなにもバタついていた蛾は、100分間の授業が終わるまで1ミリもその場から動くことはなかった。
前言撤回。きみは、とてもおとなしいタイプだ。非常に落ち着いている。全然アグレッシブじゃない。ただ、やるときはやるタイプだっただけなのね。