朝の駅のホームに浮かんでいたものが、ぱっと消えてしまった。電車が来て、消えてしまったんだ、ホコリだったかもしれない、シャボン玉かモンシロチョウか、命だったかも知れない。

君の面影だったかも知れない。

毎朝駅のホームで考えること

ぼくのつまらない一生が、こんなにもつまらないのに、一度しかないということを考えると、恐ろしくなる。考え切れない。

髪の綺麗な紺色のスカートの女子高生を見るたび、ぼくにはもう戻れない世界の住人だと、思う。ほんの、ほんの短い間なのに、彼女たちは本当に本当に美しい。彼女たちは存在しているだけで、美しいのだから。

明日起きたら死んでいたらどうしようか、そうだ、一度しかないのだった。明日起きたら、ゴミ捨て場のたんぽぽになって居ても、君はぼくを見つけてくれるだろうか。綿毛になって、君に、あと、おばあちゃんにも、会いに行けるだろうか。

夢の中でなら、ぼくたちは自由で、君は笑っていて、たんぽぽはちゃんと咲いて、こちらに手を振っていて、風も吹いている。ずっと夢を見ていられたらいいのに、どうして、どうして

でも、それでも、明日は来てしまうんだ。たんぽぽは咲いていなくて、君はいなくて、風が吹いていなくても、死にたくないと、生きたいと思えるだけいいのかもしれない。そうでありたい、せめて、せめて、少しでもいいから「明日、生きたい」と思いたい。

駅の線路と線路の間に、所狭しと咲いたたんぽぽが、ぼくを見上げている。

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