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米やめました⑦ 8ヶ月、後....。

8月には半年ぶりの検体検査をした。以前に通っていた病院は外来診療を再開し、今や感染対策の鬼と化している。相変わらず3階に上がる階段がないことを除けば、非常に安心感がある。「地元有志一同」の横断幕が眩しい。

数か月の糖質制限の結果はついに全項目クリアであり、こうなるともはや後戻りする理由がない。AST(GOT)、ALT(GPT)とも(なぜか)下限値付近で肝機能も正常だったが、実は前々日まで普通に水割りを飲んでいた(少々飲み過ぎたので、以後はハイボール缶に切り替える)。『炭水化物が人類を滅ぼす』の記述を検証するために敢えて禁酒しなかったところ、記述以上のものが出てしまった。以前ならば2ヶ月は禁酒しないと出せなかった数値である。

また、糖質制限により二日酔いしなくなるという記述も実体験済みだった。HbA1cは5.8%、諸説あるが、基準値内であるものの正常値よりは若干高めなので気が抜けない。

医師には特に指摘されなかったが、ケトン体が(-)だったのが(1+)に転じたも目を引いた。これは初めて見るもので、具体的な数値はわからないものの、同書にもあった糖質代謝モードから脂質代謝モードへの移行中と思われる。

待てど暮らせど糖質が入って来なくなると、身体が糖質で回すことを諦め、脂質で回すようになるという。内部留保された体脂肪は消費され、腹は凹む。この時点で初診時からの体重減は-11kgに達しており、それ以上は減ることはなく安定しているので、これが現時点での適正体重ということだろう。BMIで見ても普通体重の範囲内である。

医師に何かやってますかと聞かれ、「米をやめました」とうっかり口を滑らせしまい、観念して糖質制限についてと話すと、予想通りに若干呆れたように「長期の糖質制限の影響はまだよくわかっていないんですがねえ……今後は糖質の代わりに脂質タンパク質で回すということですから、脂の種類には気を付けて」とのご指導を賜る。今後長期に取り組めば、私もサンプルとして何らかのお役に立てると思うのだが。

さて頭書のとおり、夏井医師の『炭水化物が人類を滅ぼす』シリーズは結局8月に購入し、一気に読み終えた。マーケティングのため敢えて掲げたというセンセーショナルな書名とは裏腹に(時々筆が滑るとはいえ)充実の内容であり、日本の糖尿病医療のデタラメさも、依って立つカロリー計算への疑義も、糖質制限の要点は全て記されている。

カロリー計算の無意味さについては、以下の動画もわかりやすいので、糖質制限やダイエットに無縁の皆さんも是非シェアして欲しい。

「炭水化物で4kcal」云々というやけに切りの良い数字が、およそ100年前に定められたアトウォーター係数であり、これは食品に"火をつけて燃やした"データを根拠としている。人体にそのような火元がないのは明らかだが、総じて食品のカロリーに関する言説は、現代では「エセ科学」と呼ぶべきものの上にうち立てられている。

因みにカロリーの語源と思われるカロリック(熱素)は、フロギストンやエーテルと同時期に想像された架空の元素である。1845年のジュールの実験により熱素説は否定された。偶々であろうが熱量の単位も、カロリー(cal)からジュール(J) に移行している。

食品のカロリーと運動消費量は別物と考えなければならない。それどころか、カロリーゼロで生きる生物も地球上には普通に存在する。例えば牧草のみで育つ牛(グラスフェッドという語も甚だ倒錯的だが)はカロリーゼロで生きている。牛自身はセルロースを消化吸収できないからだ。

ならばどうして牛は育つのかという、詳しい説明は前掲書に譲るとして、ともかく摂取カロリーと消費カロリーを等しくすれば収支はバランスする、などというような単純な話ではどうやらない。

サイクリストはサイクルコンピュータを用いて消費カロリーを管理すると聞いた。自転車に取り付けたセンサーの値を元に計算するのだが、もちろん人体を直接計測しているわけではないので、あくまで間接的な計測による推測に過ぎない。

コロナ禍で重宝されている非接触式体温計にしても、体表面温度からの推測値を出しているわけで、使用環境や体表面との距離、汗によっても1度程度の誤差が出る。 計測器の数値が現象そのものを表しているとは限らない。

他、人間を密室に閉じ込めて運動消費量を計測するヒューマンカロリメーターなるものも存在する。この場合は当然、活動内容が限定されてしまうので、例えば水泳の運動消費量の計測には使うことはできないだろう。

さて前掲書の冒頭に記された糖質制限の効果は私も実体験している。列挙してみると、
・体重70kg→59kgまで減量
・血液検査でオールクリア
・食後に眠くならない
・二日酔いをしない
・寝覚めが良くなった

「激しい空腹感が生じなくなった」というのもある。これは血糖値の急降下が原因なので、平素低め安定を保っていれば急降下も起こり得ないわけだ。

以前であれば食後5時間もすれば、腹の虫が騒ぎはじめ、目は回り、手は震えという、後ろの二つだけを取り出せば離脱症状としか思えない状況だった。現状だと食後7時間後ぐらいからうっすらと「何か食べようかなー」と思い始める程度である。

そこから手際悪く料理を行ない、次の食事が前の食事の8.5時間後になってもまだ余裕がある。予定が詰まっている時には20時間食事をしなかったこともある。それでも「離脱症状」は出なかった。

よって「概ね1日2食になった」のも必然である。コロナ除けで終日在宅する時は、朝は水を飲むだけ、昼前と夕方に食べて野菜と肉を食べ、夜は飲んだり飲まなかったりする。出勤日には1日2.5食になり、間食としてコンビニのサラダチキン、チーズなどをかじる。

「甘味を欲しなくなった」のも自然な成り行きで、実は低GIと書かれたカカオ72%とか86%といったビターチョコレートを水割りのアテにしていた時期があった。出来れば袋ではなく箱で欲しかったのだが、近所に売っているところが少なく、そのうちに買うのが面倒になってしまった。

だから環境依存というところでもあるが、無ければ無いで不都合はないのだった。酒のアテと言えばアーモンドとチーズは常に在庫があるし、よく考えたら海藻でもローストポークでも普段食べているものなら何でも良さげな気がする。

また特に当節は「夏バテをしなくなった」という効用もありそうだ。と、憶測なのはこの夏は外出頻度も減っているからだが、昨年までは猛暑の屋外に出ると汗が噴き出し、冷房の効いた屋内に入ると時折腹を壊した。自律神経の乱れと考えられる。冬も底冷えする日には同じく腹を壊し、これを防ぐために運動をした。最近はむしろ自宅にこもり気味だが、外に出ると汗まみれということはない。「汗をかかなくなった」というのは言い過ぎだが。

逆に糖質を多く摂ると翌日が辛い。ドリアンのフリーズドライという宇宙食じみたものを見つけた時には思わず手を出してしまったが(宇宙だと匂いがNGだよな)、よく見ると100g中72.8gが糖質と書いてある。ドリアンの糖質量は果物の中でもトップクラスなのだ。1袋40gをどんどん二人で食べ切ってしまい、案の定翌朝は思い切り寝坊した。

ここまで何となくスルーして来たが、脂質は厳しく制限する必要はなく、動物性脂肪はむしろ積極的な摂取が推奨される。植物性脂肪については「食べるプラスチック」とも称されるトランス脂肪酸に注意しなければならない。理屈の上ではサラダ油よりも純正ごま油やEXVオリーブオイルを選ぶべきである。とはいえオリーブオイルのトレーサビリティに疑いが持たれている状況も気になっている。

最近の私は、しばしば野菜と海藻の上にアーモンドやくるみをばらまいて、ごま油だけをかけて食べるということを行う。目立った塩味がなくとも問題はない。

人工甘味料については、専らそれだけを摂り続けている状況で、たまに本物の砂糖を摂ると血糖値が大フィーバーしてしまうという糖質感受性の問題が指摘されている。腸内フローラに変化を及ぼすという研究もあって迂闊に手が出せない。

そもそも糖質は自然界のそこかしこに存在するものではなく、現在の人体は糖質を適切に処理するようには出来ていない。にもかかわらず、糖質という「薬物」の力でここまで繁栄したのだと解釈すると、人類の業の深さを思わずにいられない。終盤にハードSFの筆致で夏井医師が記すように、人類全体が今こそ糖質と決別して次のステージに進化することができるのか、と考えると目は回り、手は震え、もとい気が遠くなる。

だが地下水源に多くを負う穀物生産が、その枯渇と共に衰退するのは遠未来ではなく近未来の話である。昨今の気候変動と共に注目せねばなるまい。