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何度でも訪れたい美術館1 ロンドン・ナショナルギャラリー
2024年秋ロンドン・ナショナルギャラリー。あの絵とこの絵比べてみた!
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2024年秋。ロンドン・ナショナルギャラリーで観たヴェロッキオ作「トビアスと大天使ラファエル」。登場人物2人は、旧約聖書の「トビアスと大天使ラファエル」からきている。
15世紀のイタリアの絵画は、聖書の中のエピソードから描かれることが多い。中でもこのトビアス少年は結構人気者である。なぜなら死期が迫った盲目の父に代わり、貸したお金を回収するために長い旅に出る健気な少年だからだ。そして、その旅に同行してくれたのが大天使ラファエルと犬である。
わたしもトビアス君が好きで、旅行先の美術館で彼に出会うと、必ず祈ってしまう。「スリに会いませんように。転びませんように」と。トビアス少年は15世紀当時から“旅の安全”を祈願した絵なのだ。
ヴェロッキオ作のトビアス少年は、ちょっと微笑んでいる。少年と大天使は顔の位置も近く、少年が何ごとか話しかけているようだ。少年の足取りは軽く弾み、黒いマントがひるがえっている。大天使ラファエルも美しいサンダルの足を見せ、軽快に隣を歩いている。年が近い友人同士で仲良く旅している図だ。
トビアス少年がテーマの絵は、当時イタリアの豪商が息子を旅立たせる時、我が子に似せて描かせる流行だったらしい。この絵はまさにその類。トビアスの服装は赤いタイツに、おしゃれなプリーツの上着。大天使だって袖に豪華なレースの刺繍をほどこしたブラウスを着ている。当時の流行最先端に違いない。天使の羽根までカラフルですよ!
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一方、↑ この絵のペルジーノ作「トビアスと大天使」はどうだろう?これは、ロンドン・ナショナルギャラリーの同じ部屋に飾られている。まず大天使のサイズ感が違う!この絵の主役は大天使ラファエルである。天使のまなざしは静かで慈悲深いが、どこか遠いところにある。トビアス少年はすがるように大天使を見上げている。
ここに旅の高揚感はない。天使と少年との間には厳かな一線がある。これは教会の祭壇画なのでこんな風に描かれたんですね、たぶん。確かに祈りたくなる荘厳さ。
同じ部屋の近い場所に、同じテーマでこんなに趣の違う絵が展示されているのは、意図があってのことだろう。
ナショナルギャラリーではよく中高生の集団が、思い思いに床にべたっと座り、学芸員の説明を聞いていた。絵を見ることは、もっと気楽でいいんだよね。古くさいと思われがちな宗教画にもいろんな秘密が隠れていて、画家や注文主や時代の意図がある。それを勝手な解釈で楽しんでいいんだよね。
この2作が並んでいると気づいたのは、今回の旅で3度目にナショナルギャラリーを訪れた時だ。1度目は広い美術館の中で、見逃がせない名画を探すのに精一杯。やっと3度目にいろんな絵をゆっくり見ることができた。
わたしの旅には、恥ずかしいぐらいグルメもショッピングもナイトライフもない。一人の時は危険を避けて、夜は日が落ちる前にホテルに帰って、翌日行く美術館の予習をして寝るだけだ。そして帰国後も、遠い国の美術館でみた絵のことを繰り返し思い出している。