#6 友達に泣かされた日[入院生活2日目]
本日12月1日。ついに抗がん剤の副作用である「脱毛」のフェーズが来た。
昨日からなんだか髪の毛が抜けやすいなとは思っていたが、もうかなり抜けやすくなってしまった。手櫛するだけでたくさん抜ける。
今の伸びた髪で毛が抜け落ちると困るからと親に丸刈りにされた。
あったものがなくなるというのはこんなにきついのか。
髪の毛があることのありがたさを痛感した。
↑前回の記事↑
特大クソデカいびきのコーラスをノイズキャンセリング機能付きのイヤホンでバリアして一夜を何とか過ごせた。その代償で耳が痛くなってしまったが。
朝起きてすぐ、トイレで用を足して体重を測る。
約51キログラム。軽い。いつになったら筋肉で体重が増えるのだろうか。
ベッドへ戻る。
布団へもぐるとまだ暖かかった。圧倒的寝不足だったのですぐ眠りについていまった。まだ入院したばっかりなのにもう二度寝してしまった。
🥱😪😴
「ほげおさーん」
カーテンの隙間からナースさんに呼ばれる。
僕は寝ている間でも音というか名前に敏感なので、ばッと起きて「は~い」とゆるい返事をする。
どうやら入院中は毎朝6時ぐらいと午後6時ぐらいに検温と血圧測定、血中酸素濃度の測定があるらしい。
この測定器たちはどんな仕組みで計測しているんだろう、脈拍の振動とかで計測するのかしらとか想像しながら各計測を行った。
個人的には血圧測り終わったあとに腕が解放されて血液が一気にダァ~~と流れる感覚が好き。
🫀🩸💪
検温してからはずっと自由な時間。
最初のうちは親もいないしベッドの上でパソコンでゲームもできるしiPadで動画も見放題、スマホゲームもやり放題だと思っていた。
しかし飽き性の自分には次第に「自由」から「拘束」に変わっていった。
病院内の中ならどこへ行ってもいいけど外へは出れない。
まだ入院して2日しか経っていないのに窓の外の景色を見ると寂しい気持ちになった。
😢🪟🏙️
検温してからしばらくすると、朝食が来た。
メニューは米、ナスが入ったお味噌汁、つゆがシミシミのがんもどき、オクラと昆布の和え物。
なんだかものすごく質素だ。
昨日の親子丼とのギャップが大きく、
「おぉ… これが病院食か」
と感心しながらベッドの上で手を合わせ、いただきますをした。
相変わらず隣のおじいちゃんはデカい屁をこいている。
まずは味噌汁を飲む。
「ズズッ……。」
意外と普通だった。
次にがんもどきを口に運ぶ。
ジワァ~っとつゆが口の中で染み出してきてダシのうまみを感じた。
非常に米と合う。
がんもどきと米を交互にハグハグ食べて楽しんでいると、僕の治療を担当してくれる例のマッチョな先生が来た。
急に来たので焦って、食べながら説明を聞くのは失礼かもしれないと思い、めっちゃもぐもぐしてなんとかして飲み込んだ。
先生は点滴の説明をしに来たらしく、今日から生理食塩水の24時間点滴を始めるとのこと。
目的は、腫瘍崩壊のときに出る尿酸などの成分を尿として排出しやすくするため。
この日から飲み始めた「プレドニン」という名前の薬(1回に20錠も飲まなければならないくそ苦い薬)や、抗がん剤を投与すると、喉にあった腫瘍が壊れ、小さくなる。ただ、壊れた際に尿酸などの成分が出るため、それを尿で排出する。
そして、水分を経口摂取だけで済ませるよりも点滴でも水分を入れたほうが単純に摂取できる水分の量が増えるということらしい。
完食して下膳してインスタとYouTube見てたら点滴セットを持った看護師さんが来て、点滴を打ってくれた。
このころはまだ針に対する恐怖心が拭いきれておらず、点滴の針が怖かった。しかも採血の時の針よりも若干太い。
意識してしまうとどうしても怖かった。体の中に異物が入ってくるのが分かってしまうのが嫌だった。逃げたかった。
すごい量の手汗をかき、心臓をバクバクさせながら針が入る瞬間を凝視していた。
入った。
「フゥ」
思わず息を吐く。
看護師さんは僕の腕の中に残ったプラスチック製の細い管につながっているやわらかいポリ塩化ビニルのような素材でできたチューブと中に生理食塩水が入った注射器をつなげて注入する。
腕の中がひんやりした。なんともいえない冷たさ。新鮮な感覚で思わず声が出た。それで看護師さんはちゃんと血管につながっていることを確認できたみたいで、チューブの先を注射器から
[生理食塩水]
[生食]
と書かれた1000mlのパックにつなげた。
こいつはこれからしばらく共にする "相棒" だ。
💣🤯🧨
そこからはもう怠惰パーティだった。
ひたすらダラダラダラダラダラダラダラダラ……………。
慣れない痛みがときどき襲う左腕と、1000mlの "相棒" と共に飽きるほど怠惰に過ごした。
飯が来たら飯を食べて、箸を洗って、歯磨きをして。
消灯の時間になったので、また耳を痛めることを覚悟して、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンをつけて寝た
・・・
と思ったら、布団が振動した。
どうやらスマホの通知で、バイブレーションをオフにするのを忘れていたようだった。
なんの通知か見たら、友達からインスタのDMが来ていた。
内容は見ず、返信するためにインスタを開いた。
実は病気が発覚してから、仲のいい友達や教える必要がありそうな人にはがんになったことを伝えていて、みんな優しいから心配してくれたり応援してくれた。
今回も病気のことかなと思ってDMを開いた。
『昔星野源何回か重い病気なっとんのやけどその時にかかれた「地獄でなぜ悪い」っていう曲があるんやけどその曲きいて元気出して欲しい』
という文章がスマホの液晶に青白く表示されていた。
読んでいたら涙が止まらなくなった。
別にまだ曲は聞いてないし、そんなに精神を病んでいたわけでもなかった。
でもなぜか涙が止まらなかった。
イヤホンはつけていたままだったので、そのままspotifyを開いて
『地獄でなぜ悪い』
と入力した。
再生ボタンを押す。踊るようなピアノの音、星野源さんが入院していた時のことを表した歌詞、軽快に並べられていく「地獄」という言葉。泣きながら最後まで聞いた。
聞いていたら今までの注射の恐怖、しんどかった検査、自分は「がん」だと発覚した時のショック、絶望していた親の顔、出席日数が足りずに留年する事、テストの事、友達の事、、、いろんな苦労が思い出されていった。
そして、
「自分はとんでもない病気になって、とんでもない苦労をしてきて、とんでもない苦労をこれからもするんだ」ということを痛いくらい感じた。
つらい現実が嫌で、でもなんだかたくさんの友達と音楽に背中を押されていて。そんな複雑な気持ちになって、真っ暗な病室のベッドの上で、結局ひとり泣いていた。
_____________________to be continued______
ほげおの戯言
坊主になりました。ほげおです。
自分小さいころに一回丸刈りにしただけでそれからしたことがなかったので刈られる前は不安でしかなかったですね。
でも実際坊主にしてみたらシャワーのときびっくりするぐらい楽でした。
でもときどきスマホに自分の顔がうつると嫌な気持ちになりますね。
最後までご覧いただきありがとうございました!