【考察】ポケモンDLC新キャラ、スグリの「悲劇のヒロイン」ムーブにイラついた話
意中の相手へのアプローチとは実に難しい。
僕も学生時代に明後日の方向を向いた努力でよく相手を困らせたりしたものだ。プレゼントに相手が興味の無い(僕が好きな)ものを贈ってしまったり、創作ラブソングを弾き語ったり、取って付けたような武勇伝を聞かせてみたりといった、痛々しいエピソードは枚挙に暇がないが、その本質は全て「相手の目線に立てていない」という点で共通している。
あれからそれなりに年齢を重ねて、今ではそんな黒歴史など無かったかのような顔をして生活している僕だが、稀に失われし古の記憶を呼び覚ますような人物に(リアル/創作物問わず)出くわすことがある。先日配信された『ポケットモンスター スカーレット/バイオレット ゼロの秘宝 碧の仮面』に登場したスグリというキャラクターは、まさにその好例だ。
歯に衣着せぬ言動が目立つ活発な姉のゼイユとは対称的に、スグリは大人しくて自己主張が少ないタイプの男の子だ。物語の序盤では、スグリが林間学校の課題に主人公とペアになって取り組む中で、少しずつ心を通わせていく様子が描かれている。
物語中盤、「鬼」として恐れられているポケモンの登場を機に、スグリが少しずつその「仮面」の内に秘めていた本当の姿を見せはじめ、次第に2人の関係性は複雑なものへと変容していくのだが、それ以降のスグリの姿が本当に見ていられなかった。だってやることなすこと全部空回りしてるんだもん。
しかし、僕の黒歴史センサーを刺激したのは、その空回り自体ではなく、その根本的な原因、スグリの言動から見え隠れする一貫したスタンスにある。
そのスタンスとは、スグリが取る問題解決のためのアプローチが悉く自分本位で他責的であるということだ。自分のことを客観視できていないのに加え、上手くいかない理由を外的要因に求めようとする姿には心当たりがあり過ぎてキツい。
本作で描かれているのは、本質的に頭がイカれていたり、思想的に分かり合えない人間ではなく、「こういう奴っているよね」と感じさせるような生々しさを有した、いわゆる「ちょっとアレな子」だ。
根は悪い子じゃないんだろうけど、何かが根本的にズレている。それが他者とのコミュニケーション経験の少なさや自己肯定感の低さから来るものなのかまでは計りかねるが、とにかく視野が狭くて思い込みが強いことだけは間違いない。
では、実際にスグリはどんな言動を行なっているのか。3つのシーンにフォーカスを当てて見ていく。
①悲劇のヒロインごっこ
スグリは自分に自信が無いのか、ふだん表立って自己主張をすることは少ないが、自分にとって不都合が起きたとき、「自分は可哀想ムーブ」を取って自分を正当化して守ろうとしがちだ。
例えば、姉のゼイユと主人公の2人が、スグリが憧れを抱いている鬼(オーガポン)と不意に出会ったことをスグリに隠す場面。ゼイユは、自分たちだけがオーガポンを見かけたことを弟が知ったら可哀想だと思い、「何も無かった」と嘘を吐くのだが、その嘘は後に思わぬ形でバレることになってしまう。
その後、スグリは、2人が嘘を吐いていたことを激しく責め立てるのだが、このアプローチが非常によろしくない。ゼイユの言い分を聞こうともせずに一方的に「嘘つき」だと喚くばかり。ゼイユが謝ろうとしても聞く素振りすら見せない。相互理解の可能性を初めから絶っているわけだ。
2人が嘘を吐いた理由を知るのが怖かったのか、それとも「のけ者で孤独な鬼」と自分を重ねて自己憐憫に浸りたかったのか、はたまた別の理由があるのか、いずれにせよ、自分を被害者にして相手を加害者として攻撃しようとするやり口が気に食わない。
どうして嘘を吐いたのかを追及することも、仲間外れにされたように感じて傷ついたことを説明することも十分できたはずだが、自分に出来たことは見えないフリで、悲劇のヒロインを気取って相手に不満をぶつけてばかり。なんとも自分本位で他責的だ。
②他人の都合より自分の都合
その後、スグリが「カッとなってしまって言い過ぎた」と謝罪したことによって一応の和解が為されたように思えたが、彼の暴走はまだまだ止まらない。
主人公・ゼイユ・スグリの3人は、先述したトラブルの原因ともなったオーガポンと再会を果たすことになるが、どうやらオーガポンは力の源でもある3枚の仮面を失って困っている様子。それを見かねたゼイユは「皆でお面を取り戻してあげよう」と提案するのだが、なぜかスグリは「やることがあるから」と言ってその同行を拒否する。
スグリの言動の真意など分かるはずもなく、とにかく主人公とゼイユ、オーガポンはスグリ抜きで各地を巡って仮面を回収していくことに。
全ての仮面を回収すると、スグリから「オーガポンを村に連れてきてほしい」との連絡が入る。どうやら村で「鬼」として忌み嫌われてきたオーガポンの誤解を解くために村人を説得してまわっていたらしい。オーガポンに村に遊びに来てほしいという下心がやや見え隠れはするものの、スグリにしては見上げたガッツだ。何はともあれ、仮面も取り戻せたし誤解も解けた。これで一件落着のように思えた。
その後、3人はオーガポンを住処の洞穴まで送り届けるのだが、オーガポンは主人公と離れたくなさそうな様子。それなら一緒に行こうかと盛り上がっていたところにスグリから衝撃の一言。
いやいや、お前はいつも遠目で眺めてた憧れの女の子が陽キャと良い感じになるのを見るのに耐えられず突然告白してクラスの雰囲気を悪くしたワイか?
これに加えて「どっちがオーガポンを捕まえるか勝負で決めよう」とか言い出すせいで、さっきまでの和気藹々としていた空気もヒエヒエに。
このゼイユの台詞は本当に核心を突いていて、そもそもオーガポンにはスグリについていく理由が無い。村人の誤解を解いてくれたことに対して感謝はすれど、「一緒にいる」となるとまた話が別だ。そしてそれを決める権利を持っているのはスグリではなく、オーガポンだ。
さらに言えば、オーガポンは主人公に懐いたから一緒に行きたいわけであって、ポケモン勝負で主人公がスグリに負けようと、オーガポンには何の関係も無い。トロフィーのように扱うのも甚だおかしい。
結局、スグリは自分の都合でばかり動いていて、他人の都合というものを全く考慮していない。仮面の回収に同行せずに単独で村人の説得をしていたことも、オーガポンからの感謝を独り占めしたかっただけなんじゃないのかとさえ思えてしまう。
それはともかく、スグリはどうしてもオーガポンを諦められない様子。主人公の方が相応しいのは分かっているけど、それでも勝負してほしいとのこと。きっとこれは、踏ん切りをつけさせてほしいのだろうと思い、完膚なきまでに叩きのめしてやった。
はい、普通にこの後もずっとメソメソし続けて空気を微妙なものにします。こういったところも本当に相手の気持ちを考えられていない。空元気でもいいからこの場は持ち堪えろよ。お前が勝負してほしいって言い出したんだろうが。どうしてもと言うから勝負までしてやったのに、なんで気持ちを汲んでくれた相手の心にしこりを残すようなことをしてしまうのか。
散々自分のエゴで他人を振り回した挙句、自分の行動に責任も取れず、相変わらず悲劇のヒロインごっこ。やっぱり自分本位で他責的だ。……ムカつく。
③自分の間違いに向き合えない
結局、主人公との一騎討ちで敗北し、涙目敗走(ガチ)してしまうスグリだったが、その後は家に引き篭もってしまったようだ。1人になってオーガポンや主人公に対する感情に整理をつけているのかと思うと、画面には何やら不穏な様子が映し出される。
ツヨクナラナキャツヨクナラナキャなどとブツブツ呟いているが、この一連の出来事の原因が「強さ」にあると考えているのなら、とんだ見当違いだろう。
この「強さ」が何を指しているのかは分からないが、ポケモン勝負の「強さ」は今回の騒動にまったく関係ないし、精神的な「強さ」であるなら、先日の非礼をさっさと謝りに行くべきだろう(悪いことをしたとすら認識できていない可能性は否めないが)。
結局のところ、スグリが本当に問題を抱えているのは、自分の間違いと向き合えない「弱さ」にある。
そもそも自分のエゴで周りを振り回した挙句、悲劇のヒロイン気取りの涙目敗走で場をぶち壊しまくったことに詫びの一つも入れられない程度の「強さ」がどれだけ重要なんだろうか。
自分は周囲の人たちの優しさにつけ込んで好き勝手し放題するくせ、嫌なことがあったらすぐ逃げる。
原因はすぐそこにあるのに別の外的要因に救いを求めるのは、ただの現実逃避でしかない。そんなことよりも相手目線を持って自分の行動に責任を持てるようになってくれ。
おわりに
ここまでスグリがどれだけヤバい行動を取っているか見てきたが、冒頭でも述べた通り、スグリには「リアルでも割といそう」なリアリティがあり、正直なところ僕はネタとして笑い飛ばす気にはなれない。誰もがスグリチルドレンになり得る可能性を秘めている、もしくはかつてはそうだったかもしれないからだ。だからこそ、今回の文章は他者に対するリスペクトを持つのを忘れないよう、自戒の念を込めて書いたつもりだ。
肝心のスグリだが、14歳という年齢を見るに、おそらく今はとても不安定な時期なのだろう。前編のラストシーンを見る限り、後編でも彼にフォーカスが当てて描かれるであろうことに期待できそうだが、彼が精神的に成長していてほしいと願うばかりだ。